人財と組織の育成を支援する「合同会社5W1H」のニューズレター

「納得できるように、物事を主体的に変えていく力」を持った人・組織こそが、「意義深い人生を送る能力」を持った人(から成る組織)であり、「贅沢さとは異なる豊かさを享受し、QOL(人生の質)向上を実現する能力」を持った人・組織である

「確認」は「頭の柔らかさ」を保つ? 「同化せず協働」を実現する「間主観性」を育む(第200号)

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「自分(たち)が正しくて、相手が間違っている」という発言の基盤になっているのは、「正解は ”ひとつ” しかない」(どれかが正しければ、他は間違っている)という考え方です。 しかし、この考え方のままでは「価値観が多様な社会」(異なる考え方を持つ人々が共存でき、目的や状況に応じて協働できる社会)の実現が遠のいてしまいます(※1)。

だからと言って、私たち一人一人が自分の主観に基づいて「バラバラの考え方で生きていこう、働こう!」としたら、世の中が混乱に陥ってしまい、安全や安心が得られなくなってしまいそうなことは想像がつきます。

逆に、「影響力のある誰か1人」が「『白いものを黒だ』と言えば、黒になってしまう世界」というのも、「思想の統一」(権力や洗脳などといった手段が用いられ、独自の考えを持つことが許されない状況)という意味で、非常に危険でもあります。(…「自発的に、同じ考え方に共感する人が集まって形成されるコミュニティや企業」と区別することは重要です。)

では、「多様な価値観を持つ人々が同質化せずに共存でき、目的や状況に応じて協働できる仕事環境・生活環境」にしていくためには、どんなことを考え、どんな取り組みをしていくことが有効そうなのか、今回はこの辺りの話について、ひとつの考え方をお示しできればと思います。

※1 『組織能力向上エンジンとしての人財部門へ』という連載記事で、関係が深い内容を書いておりました。 よろしければ、こちらもご参照ください。
インクルージョンが能動的でなければ、ダイバーシティは逆効果!?
-『管理的なダイバーシティ』と『戦略的なダイバーシティ
-『受動的なインクルージョン』と『能動的なインクルージョン

 

「今の自分のワーク・ライフ・スタイル」には、「一日三食」が適切なのだろうか?

冒頭の話題を直接扱う前に、まずは、「お腹が空いた」という状況で、私たちがどんなことを考えがちなのか、改めて検討してみましょう。

かなり多くの人が「何を食べようか?」などと考えるのではないでしょうか?

…「何を食べようか?」の「何を」の部分が決まっている場合として、「アレを食べよう」という状況もあると思います。(朝であれば、昨晩の残り物かもしれませんし、お昼頃であれば、持参したお弁当かもしれませんし、午後であれば、おやつなどかもしれません。)

そのうえで、「○○料理がいい」とか「早く食べられる/ゆっくり食べられるのがいい」とか…それぞれの好みや条件に基づいて、「何を食べるか」を決めて「食べる」という行動に移ります。

場合によっては、「この地域の名物料理にしよう」とか「ベジタリアン(Vegetarian、菜食主義者)だから○○にする」とか「ハラール(※2)のお店がいい」などといった条件が加えられるかもしれません。

※2 「ハラール」(アラビア語)とは、イスラム法において「合法なもの」という意味の言葉です。 イスラム教徒が安心して食事を楽しめるように、「豚肉(豚由来の食品や添加物を含む)」「血液」「酒類」「イスラム法に則って食肉処理されていないもの」などを口にしないよう、さまざまな条件を満たした「ハラールな飲食」が提供される「ハラール認証」の飲食店が日本でも徐々に増えてきています。 厳格には、イスラム法で禁じられたものが入った飼料で育てられた食肉も、豚肉の入った冷蔵庫に保管された食品も、酒類を使って調理された料理も「ハラール」ではないとされています。

しかし、ここで挙げたような話というのは、いずれも、「『お腹が空いた』という『事象』に対して『空腹を満たすには、どの方法が良いか?』を検討するという、『ひとつの考え方』から生じた対応策のヴァリエーションでしかない」とも解釈できます。

「前提」として、「空腹状態というものは、『問題症状』であり、解消しなければならないものである」などといった考え方を習慣的に(無意識のうちに)採用しているため、わざわざその「前提」部分を省みてみようなどとは思わず、すぐに「空腹状態を解消するには?」という方法論に意識が向けているということを、私たちは忘れてしまいがちではないでしょうか。

ここで、視野を広げてみる試みとして、「もしその場に、自分と異なる価値観や状況の人がいたら?」という場合について検討してみましょう。

例えば、「平安時代中期から江戸時代の初期までは『一日二食』であり、『一日三食』が普及し出したのが元禄年間だ」という情報を持った人に出会い、「現代の私たちは、江戸自体の人々よりも運動量が少なくなっていることが多いし、食事の摂り方は各自のライフ・スタイル、ワーク・スタイルに合わせればよいのではないか?」などと話す機会があったらどうでしょう?

ちょっと肥満氣味だったりして、健康に意識を向けている人であれば、「この空腹の程度で、しっかりとした食事を摂っていて良いのかな? ナッツやフルーツくらいにしておいた方が良いのかな?」などと考えるようになるかもしれませんね。

あるいは、「今日の午後は、眠氣に襲われないようにしなきゃ!」という状況の人は、「しっかりとした食事するのは止めよう。 コールド・プレス・ジュース片手に、散歩にでも行こうかな?」とか「食事に出かけるのは止めて、少し仮眠をとっておこうかな?」などと考えるかもしれません。

最初は、「空腹状態というものは、『問題症状』であり、解消しなければならないものである」という前提を採用し、「空腹を満たすには、どの方法が良いか?」という「ひとつの考え方」に則って、「行動を選択する」という例を紹介していました。

ところが、その後の話によって、「お腹が空いた」という「事象」が同じであったとしても、「その事象をどう捉えるのが、今の自分にとって望ましいのか?」という「考え方」や、「どんな行動をとるか?」という「選択肢」は、実はいろいろありそうだということに氣づかれたのではないでしょうか?

私たちは、自分と似たような職業生活・個人生活を送っている人、同じ専門分野を持つ人たちばかりと過ごしていて、「異見」を持つ人と交流していないと、視野が狭くなって、知らず知らずのうちに「目先の問題症状の解消」ばかりを繰り返してしまいがちではないでしょうか?

今のあなたのワーク・ライフ・スタイルは、大切にしたい事柄について、「そもそも論」で考える機会(従来の延長線上から飛び出して、革新的なアイディアを創出できるかもしれない機会)を逃してしまっていませんか?(※3)

※3 関連して、「社内コーチの限界」について興味をお持ちの方は、下記をご参照ください。
ノーベル経済学賞と、社内コーチの限界
●「状況変化に合わせた自己刷新を促す人財開発」と「タレント・プールを充実させる組織開発」を担う 『エグゼクティブ・コーチング』

 

「スピード」を重視するあまり、「必要な手間」まで省いてしまってはいませんか?

当たり前のことのように感じられるとは思いますが、前段の話を敷衍すると、次のようにも表現できそうです。

「核心&革新」あるいは「イノベーション(創新普及)」につながるような「新たな考え方」を生み出す(優れた「質問」によって導かれる「新たな発想」を得る)ためのひとつの方法として、「異見」を持つ「異分野」の人や「社外」の人との「対話」「協働」といった「異質な体験」を求めることが挙げられる

『新たな答え』を生み出す」とせず「『新たな考え方』を生み出す」という表現を用いた背景には、人財育成・組織開発コンサルティングやエグゼクティブ・コーチングの経験があります。

「既にどこかに存在する、確立された『正解』」などというモノがない、新たな状況や予測困難な状況では、「恐らく『まだどこにも存在しない納得解』を、関係者がその場で創り上げていく」ことが求められるため、「そのプロセスの土台となる『優れた質問』・『新たな考え方』」を求めなければならない、「いきなり『答え』を求めようとすると『改善』止まりで、優れた『質問』を求めると『核心&革新』につながる」と考えているためです。

「答えではなくて、質問を求める?」と、不思議に感じられた方もいらっしゃるのではないでしょうか? 前段で扱った「お腹が空いた」という状況の話で考えていきましょう。

「空腹状態というものは、『問題症状』であり、解消しなければならないものである」という「前提」無意識のうちに採用していることに氣づかずに、あるいは、今の自分にとって有益な「前提」かどうか吟味せずに、「お腹が空いた→空腹を何で満たす?」とすぐに「答え」(対応策、How)を求めようとすると、「食べ物あるいは飲食店の種類」に関するアイディアしか出てきづらくなります

これは、「その場にいる人々が似たようなバックグラウンドを持った人ばかりだと、無意識のうちに『同じ前提』を共有してしまい(視野が狭くなり)がちになり、『何について考えるのが適切なのか(What)』の部分については改めて検討せずに、すぐに『どう対応するのが適切なのか(How)』という『対応策(答え)』を探そうとするため、既存のアプローチの延長線上にある、わずかな『改善』に留まってしまいがちだ」ということを言っています。 これが、「いきなり『答え』を求めようとすると『改善』止まり」という表現でお伝えしたい内容です。

では、「『お腹が空いた』状態の人がいる」という「事象」に対して、いろいろな「質問」を投げ掛けるとどうでしょう?

「さまざまな制約なしで、少なくとも、50個くらいは質問を考えてみてください」と伝えると、「それがどうした?」「適度な空腹状態がもたらす良い効果には何がある?」などのように、「前提(暗黙の条件など)に意識を向ける質問」を含め、それはもう、いろんな質問が出てきますし、発言者ごとの「個性」「慣れ親しんだ思考パターン」なども露わになってきます。

いきなり「何かいい案はないか?」などと「答え」を求めると、(他者から「アイディアを評価・批判されることを避けたい!」「賢いと思われたい!」といった心理が働くこともあって)その分野について詳しい人、立場が上の方の人たちばかり発言しがちです。

ところが、「○○について質問を挙げられるだけ挙げよ」などと「質問」を求めると、評価・批判の対象となりにくいためか、全員が発言するのが容易になる傾向があります。 また、対象とする物事について、表面的な理解(顕在的な欲求であるニーズの確認など)を超えて、深く洞察する(本人すら氣づいていない潜在的欲求であるウォンツの言語化などを試みる)ようになります。

そのうえ、「目の前の目的達成・問題解決に当たって、私たちは、従来通りの業界常識や自分自身の限られた経験に基づく解釈の仕方のままで本当に良いのだろうか?」といった「確認」をしようとするクリティカル・シンキング(Critical Thinking;厳密かつ建設的な思考シビアかつポジティブな考え方)が促され、関係者にも浸透しやすくなっていくのです。

イノベーション」(innovation、創新普及)を興すには、この「クリティカル・シンキング」が果たす役割が大きいとも言われているのですが、日本では、「集団における秩序や調和、あるいは礼儀」「長幼の序」に非常に高い価値を置く文化的背景があるためか、「批判的思考」などと訳される「クリティカル・シンキング」への心理抵抗を覚える人も少なくありません。 しかし、上記のような形で「質問を求める」(その後、この目的・状況で、優れた質問はどれか?などについて対話を進める)場合には、比較的スムーズにクリティカル・シンキングに慣れていくことが可能となるのです!

「核心&革新、新たな考え方イノベーションへの展開が期待できるクリティカル・シンキング』を浸透させる」ために、「無意識のうちに(習慣的に)採用している『前提』は、今回の目的・状況に対して適用して望ましい結果が得られるだろうか?」「丁寧に確認」を重ねる対話を増やしていくというのはいかがでしょうか?

あなたの職業生活・個人生活における「質問」は、「物事の本質を見抜いたり、新たな考え方を生み出したりするのに充分なだけの量と質」を確保されているでしょうか? 「スピード」を重視するあまり、「必要な手間、重要な手間」まで省いてしまってはいませんか?

 

「主観」や「客観」を超え、「間主観性」を扱うプロセスを身につける!

それでは、「多様な価値観を持つ人々が同質化せずに共存でき、目的や状況に応じて協働できる仕事環境・生活環境」にしていくためには、どんなことを考え、どんな取り組みをしていくことが有効そうなのかという、冒頭の話に戻りましょう。

私たちは、「学校教育その他の影響を受けて、『絶対解』(唯一の正解)が存在するという考え方に慣れている」ために、「どれか(誰かの意見)が正しければ、その他の捉え方・考え方は間違っている」などと、「『複数解』(目的や状況、立場の違いによって異なる正解)があることを否定しがち」です。

そしてそれが、「客観的な解」(ほとんどの人の主観が一致する解)の担う役割が大きい「工業が中心の社会」では、実際に非常に重要でしたし、今後もその重要性が損なわれることはありません。

他方、IoT(Internet of Things)なども普及し始め、今まで以上にさまざまな物事がつながっている世の中、そして、先進諸国のように価値観が多様な社会では、ウィキッド・プロブレム」(※4)がますます増えていくと共に、「主観的な解」が急増していく状況にあります。

…前段の話を関連付けるなら、「主観的な解は、多様でそれぞれ異なります」が、「関係者全員が重要だと思える『質問』は、共有することが可能だ」ということに、触れておこうと思います。

※4 ウィキッド・プロブレム(Wicked Problem;一部では「難問」などと区別するため「やっかいな問題」と訳されている場合もあります)

単に、解決に至るまでに多くの手順や時間が求められるとか、関係者が多くて問題の構造が複雑であるなどというだけでなく、分析思考・線形思考だけに頼っていては解決できない問題のことです。 さまざまな原因が絡まり合って複雑な状況を生み出しているだけでなく、関係者によって何を問題と見なすかが異なっていたりするなど、「問題設定を明確に行うことが困難」であるため、なぜ現在直面しているような状況が起きているのかが不明であったり、独特の特徴や条件などを備えているため過去の問題解決策が適用できなかったり、問題解決に向けた試験的な取り組みを実施することで、対象とする状況などが変化してしまうために改めて問題設定を行う必要が生じたり、どういう状況になったら「問題が解決した」と見なせるのか判断するのが困難…などといった特徴(のどれか、またはいくつか)を備えた問題のことです。

例:高齢化問題、頭脳流出問題、肥満問題、移民問題、地球環境問題、持続可能社会の実現問題、テロリスト対策問題、貧困対策問題など

つまり、「AかBのどちらかが正しい」とか「Aが正しければ、BもCもDもEも間違いだ」といった考え方を離れ、「より広い視野、より高い視座から、事象を複眼的に把握し、目的や状況などに応じて適切な視点を選ぶ」こと、および、「そのプロセスを促進する質問」が大切になってきているのです。(…ベジタリアンハラールのことはもちろん、散歩や仮眠などといった選択肢も挙げていましたね。)

このように、自分の「主観」だけに基づいて好き勝手にやるのとも、価値観が多様なのにもかかわらず「客観」という幻想を追い求め続けるのとも異なり、「間主観(かんしゅかん)(関係者それぞれの主観と主観のあいだの関係)を重視して、「『粘り強い対話』を通して、『納得解』を『協創』する」というプロセスを身につける必要に迫られているのではないか?と、私は考えています。

影響力が大きな特定の権威に盲目的に従うのでもなく、自分の意見が正しいとして周囲と対立を深めるのでもなく、「頭を柔らかく」保って、「目的や状況に照らし合わせて、さまざまな考え方を確認したり、協力し合って新たな考えを創出したり、関係者の心理抵抗を取り除いたりするために働き掛けたり…」という「『粘り強い対話』を通して、『納得解』を『協創』する」というコミュニケーションを、多くの人(少なくとも、経営職や管理職、リーダーやマネジャーなどといったキーパーソン)が身につけなければならないのではないでしょうか?

ここまでご紹介してきた話を踏まえ、「協創対話」(※5)の普及を通して、「多様な価値観を持つ人々が同質化せずに共存でき、目的や状況に応じて協働できる仕事環境・生活環境」の実現に貢献していきたい!と、私は考えています。

一般公開セミナーとして「協創対話」が学べる日程は、こちらをご確認ください
2月17日(金)21時まで、「早割」 実施中です

今回の、「核心&革新あるいはイノベーションにつながるような、新たな考え方を生み出すために、異見を持つ異分野の人や社外の人との対話協働といった異質な体験を求める」あるいは「すぐに答えを求めようとせず、優れた質問を求める」、そして「『同化せず協働』を実現する『間主観性』を育む」というアプローチについて、あなたはどのように感じ、どんなことをお考えになったでしょうか? 周囲の方々とお話になってみてくださいね。 

それでは、次回のニューズレターでまたお会いしましょう♪

※5 協創対話(Co-Creative Dialogue)
対話(dialogue)とは、「話の内容のみならず、関係者の思考プロセスや感情に意識を払い、特定の立場や手段に固執せず、率直な意見交換を行うことによって、目的を達成しようとするコミュニケーションの方法」であると弊社では定義しています。 そして、関係者との間で、「真実」「解決策」「新たな可能性」を探求するための、関係者との粘り強い対話のことを、弊社では「協創対話」と表現しています。

P.S. 今回紹介した「協創対話」の基盤については、『フレームワーク質問力®』で、「協創対話」の全体については、「合同会社5W1H流コーチング学習プログラム」で、参加者のリアルな課題を扱った演習を通して着実に学んでいきます。

合同会社5W1H流「コーチング学習プログラム
~適切な課題設定と視点変更を重視する「協創対話」を学ぶ~ 2月17日(金)21時まで、「早割」 実施中です。


モジュール1:フレームワーク質問力®
モジュール2:思考パターンの検出と視点の変更
モジュール3:対話のナビゲーション・システム
モジュール4:システム思考とコミットメント


まずは、モジュール1の内容や質、雰囲氣を確かめてから、モジュール2に進むことが可能です。

2月22日(水)~2月23日(木)
3月18日(土)~3月19日(日)
ほか
フレームワーク質問力®コーチング学習プログラム:モジュール1)


『マネジメント能力強化』パッケージ
~経営幹部・部長・課長・中小企業経営者など、『統括・意思決定・育成』に責任のある方向け~
…「フレームワーク質問力®」を含む3つのセミナーがセットになったパッケージです。

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