人財と組織の育成を支援する「合同会社5W1H」のニューズレター

「納得できるように、物事を主体的に変えていく力」を持った人・組織こそが、「意義深い人生を送る能力」を持った人(から成る組織)であり、「贅沢さとは異なる豊かさを享受し、QOL(人生の質)向上を実現する能力」を持った人・組織である

『組織の活性化』って、『職場が毎日バカ騒ぎ』ってことですか?(第193号)

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私たちはお互いに、「こう言えば、相手はわかってくれているだろう」と期待し、そう思い込んでいるために、「『丁寧な確認』を怠ったコミュニケーション」を繰り返してしまいがちです。

これに関して、Facebookページでは以前、下記のような投稿をしていました。

(前略)無意識のうちに、「仕事仲間は、自分と同じ程度の理解力を持っているはずだ(持っていなくてはならない)」「こう言えばわかって、思った通りに動いてくれるだろう」と考えて、『自己満足的なコミュニケーション』を行っているのであって、(知識、経験、理解力などを反映した)「『相手の視点』に立ったコミュニケーション」を行うのに慣れていないということです。

こういう場合に、「とってもありがたい!」なのは、「『ここがわからない』と言ってくれる人がいること」です。 もうひとつ加えて言うならば、「『わからない』と言える文化を、意識的につくり出している組織であること」です。(後略)

[ 出典:「物分かりが悪い」は、「コーチとしての強み」です!]

今回は、この辺りの話の例として、よく見聞きする『組織の活性化』について取り上げてみようと思います。
研究開発や製造の部門が主力の某企業で実施した「フレームワーク質問力」研修で用いたアプローチの一部をシェアいたします。 研修担当者いわく…「人文科学や社会科学を専門とするコンサルタント・講師・コーチが多い『人財育成・組織開発の分野』で、自然科学をバックグラウンドに持つ高野さんならではの話が、とても好評でした。」とのことでした。

 

「イベント」が多くて、「知り合い・友達」が増えたら、組織の活性化ですか?

「個々人が黙々と作業をこなすのではなく、もっと話し合いましょう!」という発想をする方の背景にあるのは、例えば、「異分野の人どうしが議論を交わす頻度や量が増えれば、新事業の創出や技術的なブレイクスルーにつながりやすくなる」という「業績向上に向けた先行投資」への関心なのかもしれませんし…

「何となく元氣がないから、元氣を出そう!」という発想をする方の背景にあるのは、例えば、「心地よい環境で仕事をしたい」という「働き方の改善」への関心なのかもしれませんし………いろいろな方が、それぞれの視点に立って、異なる「組織の活性化」をイメージされています。

「組織の活性化」と言っても、実は、このように、「組織が活性化した状態のイメージ」もバラバラであれば、「『組織を活性化させる』という『手段』の先にある『目的』が明確化されていない」ことがほとんどです。 (場合によっては、何かの「手段」を採用した結果、「副次的に実現される状態」が「活性化された組織」なのかもしれません。)

「組織を活性化させるにはどうすればよいか?」について検討され、取り組まれている経営者や人財部門担当者は、少なくないようです。 しかし残念なことに、いきなり「どういった取り組みが効果的か?」という「How」の話ばかりをしてしまっているために、ほとんどの議論や取り組みが結実しないままで終わってしまっています。

「組織活性化」についての対話を促す質問の例

  • 何がきっかけで、組織を活性化させたいと思ったのか? 組織が活性化すると、どんな望ましい変化があると期待しているのか?
  • 「個々人の活性化」(…個々人が元氣でイキイキしているなど)と「組織の活性化」は、何がどう違うのか? そして、それらの間にはどんな関係がありそうなのか?
  • 「活性化」したら「業績が上がる」という裏付けはあるのか? それとも、業績向上以外のところ(…例えば、同じ働くのであれば、楽しい職場がよいなど)を目指しているのか?
  • あなたが言っている「組織の活性化」は、「目的」なのか、「手段」なのか「結果」なのか、「その他のもの」なのか?
  • 何を見たり、聴いたり、計測したりすることで、活性化できたことがわかるのか?(出退社時の笑顔発生比率、単位期間あたりの新プロジェクト数、関係者の平均コルチゾール値…etc.)

「『組織活性化』についての対話を促す質問の例」に挙げたような質問を投げ掛けても、「自社独自の議論がなされていない」ために、まともに答えることができないという状況では、「中長期に続く、望ましい本質的な変化」をもたらすことは期待できません。

「何となく、他社のベスト・プラクティスを表面的に真似してみよう!」ということを繰り返し、「費用や時間や労力を割いたものの、望ましい成果が得られず」に終わり、「やっぱり、ウチの会社ってダメなのかもね…」といった形で「無能力感を学習する」のは、もう卒業しませんか?

 

例えば、「活性化エネルギー」と「触媒」の切り口から考慮すると…?

「研究開発や製造の部門が主力」の某企業で行った研修では、各自のリアル課題を扱う演習の中で、下記のようなテーマも扱いました。

経営企画の方が、「経営陣・人財育成部門から、全社員向けに『組織を活性化していこう!』という呼びかけ」を行っても、研究開発や製造の部門の人々からは、「それって『大して中身のないイベントを実施して、たまに、ワイワイ、ガヤガヤすることで、組織の一体感を高めよう』っていう、『長期安定雇用が前提の、伝統的な日本企業』のアプローチの復刻版じゃないのか?」といった「冷めた反応」を示す人々が多くて困っています。

この企業の場合、研修で上記のようなテーマを扱うことは、「面倒くさい」というよりも、むしろ、「研究や製造の現場のことをよく知らない経営陣・人財育成部門、営業などの他部門の人たちと話し合える機会(ある意味、公式の場で反論するチャンス)だ!」と「好意的に受け止めて」いただけました。

その時の演習では、研修で学んだ「フレームワーク質問力」を用いて、製造部門の方が経営企画の方に「『組織活性化』についての対話を促す質問の例」なども用いつつ、彼らの「意図や目的」について理解を深めようと働き掛けました。

製造部門の方は当初、「組織活性化に向けたさまざまな取り組みは、結局、『ガス抜き』や『氣分転換』程度の役割しか果たさないのではないか?」という考えをお持ちだったのですが、しっかりと話を聴くにつれ、経営企画の方が「会社の生き残りに向けた、危機感を持った重要施策」だという考えをお持ちだったことに氣づき、もう少し真剣に「組織の活性化」について考えてみてもいいのかもしれないと意識が変わっていきました。

しかし、そうは言っても「共通する『組織活性化』のヴィジョン」や「共通する言語」もなく、「抽象的で概念的な内容」や「散発的なイベントや思いつきのルール」について話していても埒(らち)が明かないので、私の方から「活性化エネルギー」(図1)と「触媒」(図2)についての話を提供し、これらの視点に立って「組織の活性化」についての対話を進めていただく方針を取りました。

今回は、少しでもこのときの雰囲氣が伝わればと思い、対話を深めていく際に行ったファシリテーションの一部(高野が話した内容の抜粋)を、下記二重線内で紹介いたします。

↓ ↓ ここから ↓ ↓


(前略)「活性化」という表現は、抽象度が高い概念的な言葉であるため、関係者のみなさんで連想する事柄がバラバラになりがちです。 

「どんな状態を指して言っているのか」について、本当は明確になっていないにもかかわらず、お互いに「わかったつもり」で話をしてしまいがちです。 改めて考えると、「活性化」って何なんでしょうね。

記憶している限り、私が初めて「活性化」という言葉に出会ったのは、中学生くらいの頃に教わった「活性化エネルギー」だったのではないかと思います。 みなさん、「活性化エネルギー」って覚えていらっしゃいますか? (この後、図1の解説)

活性化エネルギー(Activation Energy)とは?

図1:活性化エネルギー(Activation Energy)とは?
[物理学辞典編集委員会編「改訂版 物理学辞典」培風館 を基に、合同会社5W1Hにて改変]

エネルギーの高い、(B)の遷移状態では、反応中間体として、ラジカル(※)が生じる場合があります。 ご存知の通り、ラジカルは不安定な状態にあって、早く他の分子と新たなつながりをつくって、安定したいため、周囲の分子と化学反応を起こして早く落ち着きたい!と、そわそわ、せかせかしています。

研究や製造に携わられている方が、「組織を活性化しよう!」と言われて違和感を覚えるのは、「(ラジカルのように)活性化していて、不安定な状態になれ!」と言われているように感じるからかもしれませんね。 もちろん、経営企画の方がおっしゃっている「組織の活性化」というのは、やたらエネルギーだけ高くて落ち着きのない「ラジカルを増やそう」という取り組みではありません。

これまでは、「(C)の『終状態』について触れることなく、(表現は「ワクワク」だとか「イキイキ」だとかいろいろありましたが)ただただ『活性化』してエネルギーを高めることを目指す!という方向で話を進めておられた」ので、研究や製造に携わっておられるみなさんが誤解されていたという側面はないでしょうか? 経営企画の方、この図を見て、改めてどんなことに氣づいたり感じたりされますか?

ラジカル(radical;遊離基)
不対電子を持つ分子種のこと。 ラジカルは、普通の分子より激しい反応性を持っていて、すぐに他の分子と化学反応を起こすため、一般に、寿命が短い

(中略)どうやら、「『組織の活性化』に対する『抵抗感』」が薄れてきたようですね(笑)。 

さて、続けて「化学反応」、すなわち、「仕事仲間と相乗効果を起こすプロセス」について考えていきましょう。 化学反応が生じるには、まず、分子などが出会わなければなりません。 そして、ただ単に出会うだけではなく、出会う前の分子を構成していた結合を切って、新たな結合を形成するためのエネルギーが必要となります。

つまり、「出会うためのエネルギー」だけではなく、分子などが「それまでの在り方」から「新しい在り方」に変容するのに充分なエネルギー(分子のつながりを切ったり、再編成したりするエネルギー)を持っていないと、化学反応は生じないということです。

ここで、「活性化エネルギー」や「化学反応」と関係の深い「触媒」についても図2で見てみましょう。 (この後、図2の解説)

触媒(Catalyst)とは?

図2:触媒(Catalyst)とは?
合同会社5W1Hにて作成]

「すべての分子が持つエネルギーの平均値を底上げする」のと異なり、「現状のエネルギー(仕事への取組み意欲、モチベーション)のままであっても、(T)の遷移状態を超えて(G)の終状態に進む『活性化エネルギーを低くする』=『今までと異なる道筋を見出す手伝いをする』こと」で、「多くの分子が速く化学反応を起こすのを手伝う」のが「触媒」の役割です。 

今度は、みなさんの職場で、「どなたが、どんな場面で、どんな形で、触媒としての役割を果たす」ことが、組織の活性化を実現するうえで重要なのか?について、今回みなさんに学んでいただいているフレームワーク質問力』の内容を踏まえて、話し合ってみてください。 (後略)

※参考情報
「組織の活性化」の話と関連が深いと思われる「自律型組織」については、人事向け総合メディアの「@人事」様で2016年10月11日に公開になった下記の記事をご参照ください。
•    自律型組織=「主体的に考える社員群」+「迅速に動ける仕組み」+「対話・協働を促す文化」


↑ ↑ ここまで ↑ ↑

さて今回は、「私たちは『丁寧な確認』を怠ったコミュニケーションを繰り返してしまいがち」だという問題意識から、「なかなか『自社独自の議論』がなされていない『組織の活性化』」について取り上げました。 そして、研究や製造に携わっておられる方に馴染み深い、「活性化エネルギー」や「触媒」といった視点に基づき、「組織の活性化」についてのヴィジョンを共有する対話を進めていった事例を紹介いたしました。 

あなたは、どんなことを感じたり考えたりされたでしょうか? 周囲の方々とお話になってみてくださいね。 それでは、次回のニューズレターでまたお会いしましょう♪

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