人財と組織の育成を支援する「合同会社5W1H」のニューズレター

「納得できるように、物事を主体的に変えていく力」を持った人・組織こそが、「意義深い人生を送る能力」を持った人(から成る組織)であり、「贅沢さとは異なる豊かさを享受し、QOL(人生の質)向上を実現する能力」を持った人・組織である

粒を揃えて統合すれば「同質化」、不揃いを統合すれば「インクルージョン」だが…(第201号)

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今月開催した、教養醸成の会という「月に一度の読書会」が60回目を迎えました。毎月休まず続けてきているので、これで丸5年継続していることになります。

私は、「目的に応じて、『本の読み方』は変えるのが良い」と思っており、教養醸成の会では、「無用の用」(※1)や「専門分野『以外』で問題が生じる;日本人は『相互啓発』が弱い」(※2)といった考え方を意識した読み方で、和氣藹々(わきあいあい)と楽しく実施してきています。

こういった機会を設けて、「放っておいたら、時間を割いてわざわざ読まなさそうだけれど、ちょっと氣になる本」に強制的に触れていると、「異分野の考え方や多角的な議論の蓄積が、何かのきっかけで、新たな発想を生むタネとなり、同業他社様のコンサルティングコーチングとは異なる付加価値を創出するのに役立つ」ことが増えてきているように感じています。

…キャリア・デザインの領域で出てくる、「計画された偶発性理論」(※3)という話を連想しました。

今月取り上げた、小川 三夫(著)不揃いの木を組むは、宮大工の棟梁(とうりょう)が語った「弟子育成」に関する話が書かれた本です。今回は、私の「学習レポート」(※4)で書こうと思っていた内容の一部を、以下でご紹介しようと思います。

※1 「無用の用」(出所:「荘子」)
誰かが大地に立っていたとして、その人が使っている地面はその人の足元だけである。足元の地面以外を「無用」だとして、掘って無くしてしまったらどうなるだろうか。足元にある直接「有用」な地面は、周辺の地面によって支えられているため、その人は立っていられなくなるだろう。…といった喩え話によって、「『有用』は、『無用』を前提として必要とする」「『無用』がなければ『有用』は存在しない」という考え方を伝える言葉として知られる。

※2 専門分野「以外」で問題が生じる;日本人は「相互啓発」が弱い

※3 計画された偶発性理論(Planned Happenstance Theory)
John D. Krumboltz教授が提唱したキャリア理論で、「個人のキャリアの8割は、予期していなかった出来事や偶然の出会いなどに大きく影響される」ものであり、そういった偶然を自ら創り出せるように好奇心を持って積極的に行動したり、周囲の出来事を敏感に捉えて柔軟に対応しようとする姿勢を持って過ごすことで、「意図的・計画的に、偶然を活用してキャリアをデザインしていく」ことが可能であるといった内容です。

※4 「教養醸成の会」の「学習レポート」
私は、「相互啓発を通して学んだ事柄など」「全体を通しての学び、連想など」「現在の自分にとって、特に学びとなった部分」といった3つの切り口から、毎回、教養醸成の会を終えた後に学習レポートを作成し、参加者に配布&後日、一部を期間限定でウェブサイト公開してきています。

 

「既知」を効率よく進む「知識」と、「未知」を切り拓いていく 「学習力」

では早速、「不揃いの木を組む」の一部について、組織・人財開発の視点から、いくつか考えてみたいと思います。

  • それを、最初から何もわからないのに一所懸命教える、覚えたがる。近道だと思うからだ。 しかし、それは順序が逆や人がいいといった曲線なり反りを平安風だとか鎌倉のものだとかという、そういう頭でしかものを見なくなってしまうわけだ。 修学旅行で法隆寺薬師寺に来た生徒たちだってそうだ。 自分の目で見ていないんだ。 教わったとおり型にはまってしか見られない。 それは本で読んだ言葉や先生から教わった知識だけでものを見てしまっているからや それが学校の悪いところだな。 職人の学問というのは、まず実用性がなければいけない。 実際にやっているうちにどうしても覚えなければいけないことが出てくる。 そのために勉強するからわかるわけだ。[p.162]

この部分を読んで思い出したのは、日本とインドの学校教育の違いです。 例えば、数学の問題に回答する場合、日本では、「正解を導けていても、先生が教えた通りの解き方(同じプロセス)でないと点数を与えない」(考えることよりも記憶することが評価される、多様性よりも画一性が評価される)状況がしばしば発生するのに対し、インドでは、「別解を示せる人が評価される」(他者と異なる解法や異なる意見が出せないと、存在価値がないと見なされる)ため、「自分の頭で考え抜く力が育まれる」と聞いたことがあります。

また以前、日本学術振興会とインド科学技術庁の共同企画(マテリアル・サイエンス分野の研究水準の向上と、アジア諸国の若手研究者の育成を目的に実施された、最新の学術研究動向に関する短期集中型の研修)に、当時の東京大学助手、東京工業大学助手、名古屋大学助手と私で参加させていただき、インドに2週間ほど滞在したことがあるのですが、その際に、「ある分野に関する基本的な知識すら持たなかった人が、(自分で調べたりするのではなく)次から次へと大量の質問を繰り出し、数日議論していくうちに、その分野を専門とする研究者がハッとするような素晴らしいアイディアを生み出す」という場面に何度も居合わせたことがありました。

そして、「今、特定の知識を持っているかどうか?」といった形で「他者からどう見られるか?」を氣にするのではなく、「後日の成果が大切なのであって、今、自分の無知をさらけ出して質問することには、何の恥じらいも覚えない!」とか、「とにかく学びたい!短期間で貢献できるように成長したい!」といった、インドからの参加者の前向きな姿勢エネルギー優れた学習能力に刺激を受けたことがありました。

「ホワイトカラーの工場」と呼ばれ、「War for Talent」(優秀な人財を獲得する激しい競争)の激戦地域として、世界の有名企業から熱視線を浴びているインドの魅力のひとつは、こういったところにあるのかもしれないと感じています。

これまでは、短時間に大量の情報を獲得できる「座学」や、グループで現実の問題を取り上げ、問題解決を実施していく過程で生じる言動とその振り返りを通して学習する力を養う「アクション・ラーニング」(Action learning/Participant Centered Learning;参加者中心型学習)などのように、「関係者が『認識』できている問題を解決するための知識や技術を学ぶ」ことに焦点が当てられてきました。

しかし、近年では「現状、『認識』できていない問題・課題・機会を『探求』する」ために「『観察→仮説→検証』を何度も繰り返すという学習プロセス」「これまで何をやって来て、何を知っているかよりも、新しいことを短期間のうちに自ら学習して、身につけてしまう能力」他の分野にも応用可能な普遍的な能力、Meta-Competency;Transferable Skill)に焦点が移ってきています。

…この辺りの問題意識を反映して提供させていただいているのが、協創対話(Co-Creative Dialogue;合同会社5W1H流「コーチング学習プログラム」であり、フレームワーク質問力®(「協創対話」のモジュール1)です。

あなたが所属される組織では、効率を重視して「『正解』をたくさん『教える』だけの人財育成」をされているでしょうか? それとも、不確実性の高い市場を歩んでいく力を養うために、「現状、関係者の間で『認識』できていないことを探求する」あるいは「分野を超えて『学ぶ力』を育む」ために、何か具体的な取り組みを始めていらっしゃるでしょうか? 「他者/他社も模倣しやすい、『既知』を効率よく進む『知識・技術』の習得」と「独自の強みを活かして、『未知』を切り拓いていく『学習力』」のバランスについて、どのように考えるのが良さそうでしょうか?

 

「宮大工の話」から考える「ダイバーシティインクルージョン

次に選んだのは、こんな箇所です。

  • 飛鳥時代の大工は、基本的にそうしたんや。極端にいえば、一本一本はどうでもいいんだよいま法隆寺五重塔薬師寺の東塔を見たって、それこそ一個一個はみんな不揃いだあのころは鋸(のこぎり)がないんだし、木の癖に沿って割ってつくったのだから、みんなばらばらだその不揃いの木を適材適所に使ってあれだけのものを組み上げているんだもの。それはいまのやり方よりずっとむずかしいことだ。[p.43]
  • 一つ一つの部材の精密さより、それを合わせた全体が正確であることが大切なんやいまは「これはコンマ1ミリまでちゃんと削れます」なんていう木工の機械がある。だけど、材木をこっちから向こうへ通していくうちに乾燥して、コンマ1ミリぐらいすぐに減っていくよ。コンマ1ミリまで削れる機械だからどうのこうのというほうがおかしい。みんな小数点以下でやる時代になったけど、ほんとうに必要なのはそんなことじゃないんだよな。法隆寺は小数点以下の組み合わせで千三百年も建っているんじゃないんだから。木は生きているんだから。そんな細かいことをやっていい建物ができるかっていえば、決してそんなものじゃないな。そういう考えで人を育てると、部分だけしか見られなくなってしまうわけだよ。細かいことだけをいって大きく物を見られない。いまの時代、全体をきちっと把握した人間というのができにくいというのは、そういうことがあるやろうな。小数点以下重視の考えや。人のあらを探すのもそうだ。小数点以下であら探しをしているものな。そういう教育をするから、みんな近視眼的な人間ばっかりで、大きくものごとを把握できる人間が育たないのと違うか。[p.44-45]

 私は、「製品の品質改善・生産効率の向上・取引の単純化や公正化・新技術の発展促進・貿易(経済交流)の促進など」のために非常に大切な取り組みである、「工業分野における標準化や規格化」は、大いに推進すべきだと考えています。

一方、上記の引用箇所は、「生長途中にある若木か、落ち着いた老木か」「乾燥・収縮させて固まる前の木材か、一年ほど寝かせた建材か」といった「木の状態」や、「干割れの開き具合や硬さの程度」といった「木のクセ」に配慮せず、「規格化された部材を組み合わせる」というアプローチでは、「全体の最終的な寸法が狂ってしまうし、後日、歪みも出てくるので、良い建物にはならない」ということを指摘しているのだと思います。

この話を、組織・人財開発の視点から捉えてみようとすると、どんなことに氣づくでしょう?

いろいろな切り口があると思いますが、例えば私は、次のようなことが氣になりました。

  • あなたが所属されている組織が「学習管理システム」(Learning Management System:LMS)を導入するのは、「画一的な人財を効率よく育成する」ためなのでしょうか? それとも、「個別対応学習を促進する」ためや、「業務を通じてのフィードバック学習やコーチング、メンタリングなどを補完する」ためなのでしょうか?
  • 個々人の『強みを伸ばす』ために有効な『戦術』は駆使しているかもしれないけれど、それらは、視野が狭くて全体への影響が限定的だったり、方向性がバラバラだったりして、すべての人財が持つ力をビジネスの成果や組織の成長に向けて、最大限に活かすようにはなっていないのではないでしょうか?(…個人の自己投資・自助努力に期待する事柄と、組織として支援する事柄は、どう区別するのが良いのでしょうか?)
  • 経営上あるいは事業上の『戦略』を実行するために求められる『組織能力』の定義をしないままで、人財の採用・育成・配置をしてしまっていないでしょうか?
  • 「粒の揃った人財」ばかりで、「定まった工程を、着実に効率的にこなす『作業』」をこなすのであれば、「考え抜く人財」が1人いれば『仕事』が回るかもしれませんが、「強みや特性などが不揃いの人財」が集まって、「今まで『認識』すら出来ていなかった、新たな価値を生み出す『協創』」に携わるのであれば、「ライン長をはじめとして、ライン部門のあちこちに、『経営者や人財部門のように全体構想を練る人々』と同じ価値判断基準を持ち、自律的に行動できる人財がいる状態」になっていなければならないのではないでしょうか? …「ダイバーシティ(Diversity)を活かす、インクルージョン(Inclusion)」(※5)の話です。

※5 『組織能力向上エンジンとしての人財部門へ』という連載記事で、関係が深い内容を書いておりました。 よろしければ、こちらもご参照ください。
インクルージョンが能動的でなければ、ダイバーシティは逆効果!?
-『管理的なダイバーシティ』と『戦略的なダイバーシティ

-『受動的なインクルージョン』と『能動的なインクルージョン

ちなみに、先日参加した組織・人財部門の人向けのイベントにおける「ダイバーシティインクルージョン」の話では、「目的や戦略、中長期の業績目標などを定めてから、それらを達成するために必要な人財などの経営資源を計画的に配備することが重要である」という、『組織は戦略に従う』の考え方が主流で、「実現可能な戦略は、組織能力に規定される他社との差別化を図るには、組織の特性を活かした戦略立案が重要である」という、『戦略は組織に従う』の考え方に基づく講演や対談には出会いませんでした(※6)。

あなたが活躍されている市場・組織・成長段階では、どういった考え方で「ダイバーシティインクルージョン」に取り組むことが適していそうでしょうか?

※6 『組織能力向上エンジンとしての人財部門へ』という連載記事で、関係が深い内容を書いておりました。
上意下達の「戦略→組織」に偏り過ぎていませんか?

4つの戦略(「創発的・機械論的」×「ヴィジョン・価値観」版)

4つの戦略(「創発的・機械論的」×「ヴィジョン・価値観」版)
[ 合同会社5W1H考案]

 「制度より風土、風土より上司」→「経営職・管理職の『風土』に対する意識改革」へ

さらに、下記のような話にも着目してみました。

  • 基準をつくって、それを頼るようになって、みんな悪くなったと思うな。 基準さえクリアすればいいというふうになるからな。 だから基準というのもむずかしいよ。 時には人をだめにするな。 基準というのは最低の規則のはずなのに、それが目標になってしまうんだから。[p.195]
  • 不揃いのものを扱うのは、木でも人間でも大変だ。 規格化されたものは楽だ。しかし、その不揃いの木の癖を生かして一本一本組めば、千年を越えて塔を支えているんだからな。 昔みたいに性(しょう)なりに割った木で建物をつくってみたいものやね。 時間がかかるだろうけれどな。 不揃いを扱うというのは余裕がないとできないんだ。 時間に追われていたら不揃いなんていっていられないんだから。 しかし、人を育てるには急いではあかん。 急いだら人は育たんで不揃いの中で育つのが一番や、そう思うよ。[p.251]

昨日実施したセミナー(…「公開セミナー形式としては最終回」となる合同会社5W1H流「コーチング学習プログラム」の第6日目/15日間)では、「意識的に働き掛けて、形成・維持・伝承していくヴィジョン・ミッション・ヴァリュー・企業のDNAなどといった『文化』」と「その時期に、その場にいる人たちの暗黙の了解として受け止められていて、放っておくと落ち着く先の状態としての『風土』」の違いについて話した後、最近複数の人から教えていただいた「制度より風土、風土より上司」「制度設計2割、制度運用8割」といった表現についてもご紹介していました。

「『目に見えるモーター』だけ立派につくっても、『目に見えない電圧』が不十分なら、モーターは回らず、役に立たない」ように、「制度や組織体制や設備といったハードウェア」を整備しても、「率直にモノが言い合える風土、挑戦的な取り組みの結果としての失敗を評価し、そこから学ぼうとする姿勢、Goodで満足せずGreatを目指す組織体質、暗黙のルール、社内・業界の常識といったソフトウェア」が伴わなければ、意味がありません。

つまり、本氣で「組織能力を向上させる」ためには、今までの自分たちが「無自覚の内に良いと思って採用し続けてきた価値判断基準や考え方(ソフトウェア)を否定し、目的達成に適うものに変更する」必要があるということです。 そして、こうしたソフトウェアの変更には、多かれ少なかれ、関係者の混乱や痛みを伴うことを承知で、関係者の自発性を引き出し、増幅させつつ、その先にある望ましい状態を目指すことが求められるということです。

あなたが所属される組織、あるいは、経営職・管理職は、こうした「ソフトウェアのアップデートへの投資(手間・暇・費用)」について、どのような考えをお持ちでしょうか? 「電圧が低いままで、次から次へと新しいモーターを導入し続ける」ことで、「やっぱり、ウチの組織ってダメなんじゃない?」という思いを強化していく道を選ばれそうでしょうか?

もし「組織」を、「個々人という『点』と、人間関係という『線』、そして複数の線が組み合わさって形成される風土という『面』あるいは『立体』の集合体」だと捉えるのであれば、「組織能力の向上」には、ひとつひとつの「点」を伸ばす「人財開発」に加え、「線や面や立体」をより望ましいものに変える「組織開発」に取り組むことが求められます。

そして、その「組織開発」の核となる内容は、「制度や組織体制や設備といったハードウェア」の整備ではなく、実は、「無自覚の内に良いと思って採用し続けてきた価値判断基準や考え方(ソフトウェア)の改革」であるという思いを強められたのではないでしょうか?

あなたが所属される組織では、具体的にどんな手を打っていらっしゃるでしょうか?

さて今回は、「個人のキャリアの8割は、予期していなかった出来事や偶然の出会いなどに大きく影響される」という「計画された偶発性理論」についても触れ、「宮大工の棟梁が語った話が書かれた本」であっても、「『徒弟制度』について情報収集する」だけの読み方しかできないのではなく、さまざまな視点から読み、議論し合うことが可能だという例をお示ししたつもりでおります。

…私にとっての「教養醸成の会」[次回、6月4日(日)]は、「偶然を自ら創り出せるように好奇心を持って積極的に行動する、周囲の出来事を敏感に捉えて柔軟に対応しようとする姿勢を持って過ごす」という取り組みのひとつです。 また、「変化促進研究会」も継続して実施してきております。

●パフォーマンス・マネジメント…隔週水曜19時~×3回@新宿&

6月7日(水)スタートの、次期『変化促進研究会』は、『隔週水曜19時~×3回@新宿』で開催します。

今度は、「パフォーマンス・マネジメント」に関する内容を扱った書籍 "How Performance Management Is Killing Performance and What to Do About It: Rethink. Redesign. Reboot." です。

今回、具体的な内容として取り上げたのは、本ニューズレター読者の関心領域を踏まえて、「組織・人財開発の視点」からのネタ(知識 vs. 学習力、ダイバーシティインクルージョン、組織風土改革)でしたが、あなたはどのように感じ、どんなことをお考えになったでしょうか? 周囲の方々とお話になってみてくださいね。 それでは、次回のニューズレターでまたお会いしましょう♪

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