人財と組織の育成を支援する「合同会社5W1H」のニューズレター

「納得できるように、物事を主体的に変えていく力」を持った人・組織こそが、「意義深い人生を送る能力」を持った人(から成る組織)であり、「贅沢さとは異なる豊かさを享受し、QOL(人生の質)向上を実現する能力」を持った人・組織である

「最小限の研修」は「戦略の明確化」から!経営陣への質問が重要(第194号)

follow us in feedly
Send to Kindle

 

そろそろ来年の研修を検討しようと思われている企業も多いようなので、今回は、「時間や費用などの制約があるため、最小限の研修だけを効果的に実施したい」とお考えの、人財育成・組織開発担当者ライン・マネジャー、中小企業の経営陣などの参考になればと、今月に入って報道された2つのニュースを絡めながら、弊社なりの考え方を紹介いたします。

 

ノーベル賞の「オートファジー」と、大規模停電を引き起こした「火災ケーブル」

今月、オートファジー (Autophagy;自食作用)の仕組みを解明した功績から、大隅良典さん(東京工業大学栄誉教授)がノーベル生理学・医学賞を受賞されたことがニュースとなりました。

オートファジーは、「栄養制御」「細胞内浄化」「細胞質内に侵入した病原微生物の排除」などといった形で、「生体の恒常性維持」に関わっていることが知られています。
…ごく簡単に補足すると、「栄養制御」とは「栄養飢餓状態に陥った生物が、自分の細胞内のタンパク質を分解して一時的にエネルギーを得ること」で、「細胞内浄化」とは「細胞内タンパク質の異常な蓄積を防いだり、栄養環境が悪化したときにタンパク質のリサイクルを行ったりすること」を指しています。

さらに(正確さよりもわかりやすさを優先して)ざっくり理解しようとすると、「細胞内の不要なものを分解したり、リサイクルしたりするという『新陳代謝』のメカニズムで、重要な役割を果たすのがオートファジー」だと解釈できそうです。
…ヒトが生きていくために、毎日合成しているタンパク質は200~300グラム程度であるとされています。 また、1日に食事から摂取できるタンパク質の量は50~80グラム程度に過ぎないとも言われています。 そうすると、その差、120~250グラム/日程度の不足分は、どうしているのでしょう? その不足分を、「さまざまな臓器を停止させず、通常通り機能させながらも、既に体内にあるタンパク質のリサイクル(分解→ 合成→ 再生利用)で担っている」のがオートファジーだということです。

同じく今月、「東京都内の約58万6000戸に影響が出た大規模停電を引き起こしたのは、約35年間、一度も交換したことがないケーブルの経年劣化による火災らしい」というニュースがありました。 

まだ火災原因の断定には至っていないようですが、今回の報道によって、「定期的に、機械の部品やオイルを交換する」あるいは「定期的に、スマートフォンやパソコンのOSやアプリをアップデートする」といった形で「新陳代謝が正常に行われていること」が「正常な機能の発現・維持」のために非常に重要であることを改めて実感しました。

私が、ノーベル賞の対象となった「オートファジー」の話と、大規模停電を引き起こした「火災ケーブル」の話に共通するのではないかと連想したのは、「新陳代謝」という概念でした。 生体であれ、機械であれ、高速道路やガス管・水道管であれ、さまざまなものがその生命や機能を維持するための根本的なメカニズムとしての「新陳代謝」は重要なのですが、普段、目立ちません。

まだ、ガス管・水道管などであれば、「入れ替え工事」といった形で、新陳代謝が行われていることを意識しやすいかもしれません。 しかし、私たち自身の身体の新陳代謝の場合には、「さまざまな臓器を停止させず、通常通り機能させながら」行っているわけですから、まるで「飛行機が、空を飛びつつエンジンなどの部品を入れ替えている」くらいの離れ業のようにも感じます。

日常生活を送るうえで、注目を浴びることもなく、まったく目立たない活動だけれど、生命や機能を維持するうえで不可欠な「新陳代謝」の重要性、改めて認識された方も多いのではないでしょうか?

さて、ここまでお読みくださったあなたは、「時間や費用などの制約があるため、最小限の研修だけを効果的に実施したい」という話と「新陳代謝」の話は、どのような形で関連付けられそうだと予想されますか?
「20世紀は『分析』の時代で、21世紀は『統合』の時代」とも言われます。まったく異なる物事の間に「つながり」(新結合)を見つける訓練は、イノベーション(創新普及)を興していく能力を高めるうえで、有用ではないでしょうか?

 

「やらないよりは、やった方が良いこと」が、最大の障害!?

その人の置かれた状況や状態にもよりますが…「定期的な運動をしないよりは、した方が良い」「目先の仕事に直結しなくても、専門分野の主体的な学習はしないよりは、した方が良い」「今流行の○○は、体験しないよりは、体験しに行っておいた方が良い」「自分の部屋は片付けないよりは、片づけた方が良い」などなど、私たちの身の回りには、「やらないよりは、やった方が良いこと」が満ち溢れています。

舵取りコミットメント」という弊社の「目標設定セミナー」などでお伝えすることもありますが、実は、「何かの目標を達成しようとする際に非常に大きな障害となるのが、『やらないよりは、やった方が良いこと』」です。 

「『やらないよりは、やった方が良いこと』に、時間・費用・労力などを分散させてしまって、重要な取り組みがおろそかになってしまう」ため、結果的に、目標達成を邪魔してしまうのです(※1)。

「やらないよりは、やった方が良いこと」は、人が良かれと思って薦めてくださったものだったり、話題や流行になっていて興味深かったりする場合も多いため、ついつい、「日常業務を遂行するうえで、注目を浴びることもなく、まったく目立たない活動だけれど不可欠な『新陳代謝』(※2)に相当する活動をないがしろにして」しまい、そちらに飛びついてしまいがちとなる氣持ちはわかります。

しかし、やはり、「自分が所属する組織が取り扱うべき問題・課題・目標」は何なのか、そして、「組織の持続的な発展・繁栄の下支え」として欠かしてはいけない「新陳代謝のような持続的な取り組み」には何があるのかということについて、しっかり考えて手を打っておかなければ、第2、第3の「大規模停電」を起こしてしまいかねないのではないでしょうか?

※1 「今すぐできる『小さな一歩』にばかり取り組んで、『対症療法』を繰り返し、事態を悪化させないためには『問題設定』が重要」といった考え方に興味をお持ちの方は、下記の参考情報をご覧ください。
今すぐできる「小さな一歩」"ばかり" 探さない!

※2 ここで言っている「新陳代謝」とは、単に「採用と解雇」による「人の入れ替わり」を指しているのではなく、「優秀な人財の獲得が難しく、今いる人財で何とかやっていく」ことが求められる組織の「自己刷新」(人財育成と組織開発)を指しています。 以降、用語を併記すると読みづらくなるため、「新陳代謝」だけを用いますが、文脈に応じて、「自己刷新」を指すものであることをご了承ください。

あなたが所属される組織では、「新陳代謝」のように目立たず、軽視され、後回しにされがちな「人財育成・組織開発の取り組み」が、下記のような側面から重要であることを、しっかりと認識されているでしょうか?

「短期的・経済的成果が測定しづらい投資」として軽視されがちな「人財育成・組織開発の取り組み」の重要性とは?


●「経営戦略・事業戦略の実行」や「組織の持続的な発展・繁栄の下支え」、「企業価値の向上」を可能にするといった形で、「組織の財務上の目的達成に貢献する取り組み」であり、

また、その成果として、意識や行動の変容がもたらされることを通して、

「顧客あるいは従業員の満足度の向上につながる取り組み」でもあれば、

「業務プロセスの効果性・効率性の向上につながる取り組み」でもあると言える。

上記を踏まえ、人財育成・組織開発担当者やライン・マネジャーには、「人財プールの充実度が、戦略を規定する」という側面について経営陣の理解を促し、「優秀な人財が働きたいと思う組織」にしていく取り組みが求められます。

「『足りないものを補おう!』とする『終わりのない底上げ研修』」に陥らず、「やらないよりは、やった方が良いこと」に惑わされず、自組織なりの問題意識や課題設定に基づく「戦略的な視点」から、「新陳代謝」の内容を選定されていますか?

 

「組織能力の向上」に取り組むには、経営陣に質問しなければならない!

ここまでの話で、「時間や費用などの制約があるため、最小限の研修だけを効果的に実施したい」と考えるのであれば、良かれと思って他者が薦めてくださった研修や、話題や流行になっている研修に飛びつくのではなく、「組織自体に競争優位性を持たせる役目も果たす『新陳代謝』的役割の研修」の持続的な実施も忘れないようにしなければならないことを、ご理解いただけたのではないでしょうか?

「現状実施して(きて)いる研修体系の見直しを図る」という考え方の背景にあるのは、「従来施策の延長戦上にある『改善』」です。 これはこれで、確かに有用(やらないよりは、やった方が良いこと)だと思うのですが、人財育成・組織開発に多くのリソースを割けない大半の組織にとっては、「戦略の実行」や「組織の持続的繁栄を可能にする適応力の向上」などといった「ビジネスの視点」を欠いた研修であれば、むしろ有害となってしまいかねません。

例えば「OJTを充実させる」「人事評価項目を変更する」「頻繁に短時間面談の機会を設ける」など、研修以外のことに取り組んだ方が「組織にとって望ましい成果」が期待できるかもしれないといった側面について検討するなど、「研修は、人財育成・組織開発の中の『ひとつの手段』に過ぎない」という包括的な視点に立った研修体系の構築が求められているのではないでしょうか?

人財育成や組織開発の担当者の仕事は、「レストランに入って、人氣メニューをいくつか選んで注文するように研修を選び」、発注・実施することではありません。 

「経営陣に確認しておきたい質問の例」や「図解:人財部門は、『恒常性維持』と『創造・進化』の両立へ」、「表1:『状況認識』の違いによって、『組織能力を向上させる取り組み』の内容は変わる」、「表2:『浅い学習』 vs. 『深い学習』」で取り上げたような内容について、

経営陣やライン・マネジャーとしっかり対話しながら、意識の共有を図るプロセスを経て、今の自組織にとって最も効果的だと思える「最小限の研修」を選ぶことが求められるのではないでしょうか?

…弊社としては、「新たな可能性や柔軟性を育む『冗長性』」なども重要だと考えていますが、今回のニューズレターでは、あくまでも「時間や費用などの制約があるため、最小限の研修だけを効果的に実施したい」をお考えの方向けに、是非検討していただきたい事柄についてご紹介しています。

経営陣に確認しておきたい質問の例


現時点における、自社のビジネス上の課題は何か?
…「短期あるいは長期で、どんな変化の兆し機会を認識しているのか?」といった視点や、「フレームワーク質問力」の「問題発見→問題設定→課題設定→目標設定」といった流れなども意識して整理する。

その課題を解決するために、組織と人財の側面から求められる活動は何か?
「ライン部門で検討すべきこと」(現行&近い将来のプロジェクト)、「人財・組織部門で検討すべきこと」(部門横断的&人財・組織部門自身)には、どんな事柄があるか。

経営陣自身が抱える問題や課題は何か?
経営者を含めた経営陣も「組織の人財」であるため、人財・組織部門が「意図して『開発』する対象」であり、「自(おの)ずから『発達』するのを支援する対象」です。

※3 参考記事
目的達成に没頭して数値管理←高業績者が部下の信頼を失う道!
経営陣に投資して、組織の業績向上!? 社員の底上げより効果大?

など

図解:「人財部門は、『恒常性維持』と『創造・進化』の両立へ」

人財部門は、『恒常性維持』と『創造・進化』の両立へ

 [ 出典:「@人事」様での連載記事:「組織への提言に『ビッグデータ』、個人目標達成に『リトルデータ』」 より転載 ]

表1:『状況認識』の違いによって、『組織能力を向上させる取り組み』の内容は変わる

将来予測がほぼ確実なビジネス環境VUCAなビジネス環境
保証されている結果を提供 同意に基づく製品・サービスの提供
要望・依頼に確実に応える姿勢が重要 要望を推測・共に言語化する姿勢が重要
手際のよい処理能力が重要 適切な課題設定能力が重要
計画性・着実性・手段を重視 創造性・柔軟性・目的を重視
無駄を排した効率化が重要 変化の創出/変化への適応が重要
自前主義の閉鎖系組織が優勢 協働が盛んな開放系組織が優勢
他社との競争に勝つことが重要 高価値創出に向けた協働が重要
行動定着と結果に着目 相互作用と成果に着目

 [ 出典:「@人事」様での連載記事:「今後は、行動定着よりも相互作用! キーパーソン・人財部門の役割は?」 より転載 ]

 

表2:『浅い学習』 vs. 『深い学習』

浅い学習深い学習
研修で、その分野の権威が伝える知識は、普遍的で間違いのない事実や手順だとして、まずは無批判で信じるようにする 新たな知識を教わる際には、「それがどのように生み出されたのかという過程を理解し、そのプロセスが適切かどうかについて、丁寧に確認する」よう促す
研修の目的や意図、学習メニューの全体像などを踏まえることなく、まずは記憶する 研修の終わりには、自分の理解した内容や疑問点などについて、他の参加者との対話を通して振り返り、全体質疑でポイントをシェアする
研修内容と、研修参加者が既に知っている内容は、基本的に無関係のものとして取り扱う 研修参加者は、新しい知識や概念と、これまでの知識や経験をどのように関連付けて捉えることが重要なのかについて、納得できるまで質問する
研修内容は、断片的でまとまりのない知識の集合体でも仕方がない(…組織として、一旦「研修で教えてある」ことが大事) 異なる分野の知識が「どのように相互に関係し合うのか」といった視点から学び、異分野の知識を統合させること・実際に活用できることを重視する
研修参加者は、事実を記憶し、「なぜそのように行うのか」といった事柄に関する理解がなくても、特定の言動・態度が取れるようにする 研修参加者には、「様々な知識や事例にどんな共通パターンがあるのか、それらの根底にある基本原則とは何か」を探求することを促す
研修で教わったものと異なる状況に遭遇した場合には、混乱したり、対応が遅れたりしても仕方がない 新たな考え方や状況に遭遇した場合には、「目的達成に向けて、それをどのように評価し、対応方法を検討するのが適切か」考えることを促す

 [ 出典:合同会社5W1H Facebookページ記事::「『深い学習』vs.『浅い学習』…いくつかの切り口」 より転載 ]

あなたが所属される組織では、「レストランに入って、人氣メニューをいくつか選んで注文するように研修を選ぶ」のではなく、「『新陳代謝』のような重要な取り組みを欠かさない」ためにも、「他社が模倣することが困難な、独自価値を創出する人財・組織になっていく」ためにも、「経営陣やライン・マネジャーとの間で、『戦略の明確化』を図るような『深い対話』に基づく研修選び」をされているでしょうか? 

組織開発・人財育成担当 の方へ
中小企業の経営陣 の方へ

「人財育成体系の策定」や次期の「研修体系づくり」を検討されている方で、もし、今回のような話に興味をお持ちの方には、「御社の課題の明確化」などに役立つ「無料個別相談」(1社様2時間まで)を受け付けております。 無料個別相談を希望される方は、こちらから、お氣軽にお問い合わせください。

さて今回は、「時間や費用などの制約があるため、最小限の研修だけを効果的に実施したい」お考えの、人財育成・組織開発担当者やライン・マネジャー、中小企業の経営陣などの参考になればと、ノーベル賞の対象となった「オートファジー」の話と大規模停電を引き起こした「火災ケーブル」の話をつなぐ「新陳代謝」という視点を取り上げ、「短期的・経済的成果が測定しづらい投資」として軽視されがちな「人財育成・組織開発の取り組み」についての弊社なりの考え方を紹介してまいりました。

あなたは、どんなことを感じたり考えたりされたでしょうか?周囲の方々とお話になってみてくださいね。それでは、次回のニューズレターでまたお会いしましょう♪

Send to Kindle

follow us in feedly