人財と組織の育成を支援する「合同会社5W1H」のニューズレター

「納得できるように、物事を主体的に変えていく力」を持った人・組織こそが、「意義深い人生を送る能力」を持った人(から成る組織)であり、「贅沢さとは異なる豊かさを享受し、QOL(人生の質)向上を実現する能力」を持った人・組織である

目の前に「英語学習を苦痛に感じる、社内教育担当者」がやってきたら?(第171号)

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こんにちは、合同会社5W1Hの高野潤一郎です。

もし、あなたの目の前に、英語学習を苦手だと感じる社内教育担当者がやってきて、英語学習に関する悩みについて相談を持ちかけてこられたら、あなたはどのような対応をされるでしょうか? 12月28日の「コーチング漬け体験」で登場したこの話題を、1月7日の「変化促進研究会」で扱った切り口も踏まえて共に振り返ってみることで、あなたが日常的に行っておられるコミュニケーションや思考法について、改めて認識するきっかけとしていただければ幸いです。

※この場を借りて、「コーチング漬け体験」で扱った話の公開を許可していただいたYさんに、改めて感謝申し上げます。Yさん、ありがとうございます!

 

「社内教育担当者は、TOEICで高得点を取らなきゃダメだ」→どうしよう?

コーチング漬け体験」でクライアント役(…コーチングを利用する人の役)を務められたYさんが、コーチ役(…コーチングを実施する人の役)を務められたHさんに語られた話の概要(コーチングで扱って欲しい話の概要)は、下記のようなものでした。

a)某大手企業のグループ会社にお勤めのYさんは、学生時代から英語が苦手で、入社の際に高い英語運用能力が求められない部署を選んだという経緯もお持ちの方らしい。

b)Yさんは、コンピューターのシステムやソフトウェアの設計等に携わる技術者として活躍されてきて、現在は社内教育担当者として従事されている。

c)会社のグローバル化の流れを受け、社員教育担当部署としても、英語の運用能力向上に向けた施策に力を入れるようになってきている(…半年に一度、全社でTOEICを受験する; 2015年から会議を英語で実施することを検討しているほか)。 ただし、現在のYさんの業務で英語を活用する場面はほとんどない。

d)「英語学習を推奨する部署の担当者としては、TOEICでは高得点を取得していることが望ましい」といった方針が会社から示されたり、周囲から「英語ができなきゃいけないよね!」といった無言の圧力を感じたりしている。

e)「この苦しみはいつまで続くんだろう?」と感じている。 本当に苦手なモノをどう克服すればよいのかについて、ヒントが得たい。 苦手な英語学習が続かない状況を何とかしたい。

さて、上記 a)~ e)の情報を伝えていただいた場合、あなたがコーチ役だとしたら、どういった形でコーチング(…弊社では『協創対話』とも呼ぶ)を進めていきそうでしょうか? 数十秒でも構わないので、ちょっと考えてみてください。

もちろん、唯一絶対解というのはないでしょうし、本来は、双方向の対話や図解などを用いてクライアントの考えや氣持ちを整理したり、コーチからの質問をきっかけにして、新たな解決策を協創していったりするのが(少なくとも弊社流の)コーチングですので、ここでは、あくまでも「軽い頭の体操」と捉えていただいて、楽しく妄想してみてください。

 

与えられた問題を効率的に解く「デフォルト思考」

さて、あなたはどんな話の進め方をイメージされたでしょうか?

今回、「コーチング漬け体験」に初参加のHさんは、お仕事の関係上、日常的に相談事を持ちかけられて話をすることに慣れていらっしゃる方でした。コーチング経験に関しては、書籍を読んだり、単発のセミナーに参加したりしたことはあるけれど、「ビジネス系の、こんなにガチ(ンコ)のコーチングを体験するのは初めてです」(…本人談)とのことでした。

そして、Hさんが進められたコーチングは、Yさんの発言の内、特に d)の内容に着目され、「Yさんはどうなりたいのですか?」「TOEICの目標点数は?」「読む、聴く、書く、話すの内、苦手なものは?」「英語学習に割ける時間は?」「その時間の中で、効率的に学習するには?」…といった事柄について尋ね、TOEICの高得点習得を目指す効率的な英語学習方法・学習計画」に関する話をとてもスムーズに進めていらっしゃいました。 あなたが想像されたアプローチは、Hさんのアプローチと似ていたでしょうか、それとも、かなり異なるアプローチだったでしょうか?

このとき、Hさんが採られたコーチングのアプローチ(考え方、話の進め方)の基盤となっているものは、1月7日の「変化促進研究会」で扱った内容でいうところの、「デフォルト思考」(Default Thinking)と呼ばれているものだと感じました。

「デフォルト思考」というのは、「合理的に、線型的に(※1)考えて、問題解決しようとする考え方」のことを指していて、「生産性の向上、効率性の向上、複雑な運用手続きの削減、資源・製品群の最適配分、最短で最大の対価が見込める投資など」を行うのに力を発揮する思考法です。 私なりの解釈では、デフォルト思考というのは、事象の捉え方の適否について考慮するプロセスは省き、与えられた問題を効率的に解こう」とする際に威力を発揮する思考法を指すのだと認識しています。

※1 線型的に
(数学的な厳密性は別として)大雑把に言うと、「『変化は、直線的・連続的に予測できる』『働きかけの大きさに応じて結果が予測できる』『想定外の大変化は起こらない』という前提に則って」という意味。

これまで弊社のニューズレターをお読みくださっている方であれば、弊社でお伝えしているコーチングでは、「課題の(再)設定」を重視していることを覚えてくださっているかもしれませんね。…「東京からベルリンに行きたい人が、サンフランシスコに早く効率的に到着しても目的達成したとは見なせない」のと同様、「目的や課題が適切に設定されていないうちに、さまざまな取り組みを効率的に進めても、間違った結果や成果をもたらすだけ」と考えているため、弊社では、デフォルト思考で省略している「事象の捉え方の適否」について確認するプロセス、あるいは、「課題の(再)設定」を重視しています。

では、「コーチング漬け体験」では、「デフォルト思考」を基盤とするアプローチ以外に、どういった切り口から「振り返り」(…「コーチング漬け体験」では、グループ内振り返り→グループ間振り返り→高野による全体振り返り→当事者グループ振り返り→他のグループ・メンバーによる振り返り→高野による2度目の全体振り返りといった形で、通常、合計6回の振り返り:メタ認知学習を実施)があったのでしょうか?

 

与えられた問題の適否を検討するのに役立つ「センスメイキング」

コーチング漬け体験」の「振り返り」で、YさんとHさんのセッションについて、私が指摘したことの中には、例えば、次のような事柄がありました。

  • Yさんの e)の発言では、「本当に苦手な英語を…」という表現ではなく、「本当に苦手なモノを…」という表現が選ばれていました。 つまり、英語学習に伴う苦痛の話からスタートしているのは確かだけれど、話をしているうちに、Yさんの頭/心の中で、「英語と同様に苦手な他の対象物(仮に、Xとしましょう)」が思い出され、「英語学習とX」をひっくるめて、「本当に苦手な ”モノ”」という表現が選ばれた可能性がある。→確認(適切な質問によって、推論あるいは仮説の検証を行うこと)を推奨
  • 同じく、e)の発言では、「この苦しみはいつまで続くんだろう?」「苦手な英語学習が続かない状況を何とかしたい」という2つの表現で、共に「継続」に関する話をされていることに氣づきます。 ここから、英語学習を開始することはできるし、その経験もあるのだけれど、「英語学習を継続できないために、望ましい成果が得られていない」というYさんなりの見解をお持ちなのではないか?という推論/仮説が成り立ちます。 今回のコーチング目的に合わせて表現を変更すると、例えば、「『英語学習を継続できさえすれば、望ましい成果が得られる』とお考えなのでしょうか?」といった質問フレーズが浮かんできます。(…背景にあるのは、Yさんは、「英語学習の習慣などが身につきさえすれば、成果は上がる」「英語を学習する能力自体への不安はない」などといった考えをお持ちなのではないか?という推論/仮説です。)→確認を推奨
  • 上記の2つを整理すると、TOEICの高得点習得を目指す効率的な英語学習方法・学習計画」を探求するのではなく、「実務を行う上での緊急性が高いと言えず、興味が持てない取り組み(…例として、今回の話に出てきているのが ”英語学習” )を継続させるには、どうすればよいのか?」というのが、Yさんがお持ちの、より本質的な問題意識のようだ、という話の全体像が見えてきます。→確認を推奨
  • クライアントの話をしっかり聴くことは、もちろん非常に重要ですが、コーチがクライアントとまったく同じように考えていては、クライアントと同じ迷宮に入り込み、同じように悩んで終わり(…「あなたの氣持ち、よくわかりますよ」と共感し、クライアントの感情解放を手伝って終わり)になってしまいます。 また、自転車操業的に、さまざまな問題症状への対症療法を繰り返すだけ」というのも、満足度の高いコーチングとは言えないと考えています。 やはり、「緊急対応が求められる問題症状を扱うことと、より本質的な問題解決を行うことの2段構えで臨む」のが適切で、満足度の高い効果が得られるのが、実施したいコーチングではないでしょうか? このような認識の下、弊社流のコーチングでは、コーチはクライアントの「事象の捉え方の適否について考慮する」ための働きかけを実施するのが望ましいと考えています。
  • 上記方針に則って、例えば、次のような質問をYさんに投げ掛けてみるというのはどうでしょう?

例1) もし、同業他社に先駆けて、英語で発信されている人財育成関連の情報を入手することができるようになったり、そういった情報提供者に英語で質問を投げかけることを通して、頼れる社外人財ネットワークが構築できたりすると、グローバル化に向かう会社の社員教育担当者としてのYさんの仕事には、どんな変化がありそうでしょうか? 最初はシンプルな質問を投げかけるといった形で構わないので、世界中に存在する人財育成の専門家、あるいは、Yさんと同様に社内教育担当者として、類似の悩みや課題をお持ちの方と情報/意見の交換を始めること、そして、今までと異なる情報源から得られた知見を自社の同僚と共有したり、社内の取り組みに活かしたりすることで、Yさんの実務に、どのような変化や影響がもたらされそうでしょうか? 『そういったやり取りを行うのに必要な、実践的な英語の学習を続ける』というのは、市販の英語学習教材を通して一人で英語を学ぶ場合と何が違いそうでしょうか? そういった取り組みを続けた結果として、TOEICの点数が上がっているという状況は非現実的でしょうか?

例2) 現状の英語力や各種翻訳ツールなどを最大限に活かすことによって、英語で発信されていた情報を活用したり、英語圏に住む専門家や知り合いになった人から協力を得たりして、自社に効果的/効率的な人財育成の仕組みを構築することなどに注力する!というのはどうでしょう? そうした取り組みによって、自社の教育コストを大幅に低減できた!などといった実務上の成果を上げることによって、TOEICの高得点を目指させようという自社の教育方針』は誤っているのではないか? 代わりに、『○○といった方針によって自社に適したグローバル人財の育成を目指す』という施策を提案します!と社内教育担当の同僚や上司、経営陣に訴えかけることもできるのではないでしょうか? どう思われます?

例1)は、「英語の学習教材を順々にマスターしていく」といった取り組みと異なり、「Yさんの業務の一部を英語でこなしていく」というように「取り組む事柄の変更」(…課題の再設定)を行った状態の想像を促しています。 そして、「TOEICの高得点取得」を「目標」とせず、「副産物」(間接的効果のひとつなど)とすることで、「興味が持てない、苦手な事柄に継続的に取り組まなければならないという心理的負担」(モチベーション上の問題)に向き合わなければならないという「思い込み」を払拭するのにも役立つかもしれません。

例2)は、「『周囲からの無言の圧力」を自分で勝手に感じて、クヨクヨ悩んでいることは、自分にとって、あるいは所属組織にとって、本当に有益な状態なのだろうか? そもそも、グローバル人財育成を目指す取り組みとして、TOEICの得点という指標を用いることが、自社にとって適切なのか?  どこからそんな方針/判断基準の話が出てきたのか、精査しないうちに鵜呑みにしていて良いのだろうか?』という視点に立った質問となっています。

「英語の苦手な個人」という単一の視点で考える姿勢から離れ、「社内教育担当者」という「組織が期待する役割」という視点にも配慮し、「現時点における英語力を最大限に活用することで本業での成果を挙げて見せ、グローバル人財としての働き方と英語力の関係について、自分なりの実績/根拠を示せるようにする。 その上で、社内教育に関して、適切な問題提起や施策の提案を行うことが、組織にとって大切ではないだろうか?」と考えることを促進しています。

コーチング漬け体験」で私が紹介した例1)例2)のアプローチは、「フレームワーク質問力(R)」[一般公開セミナー][企業研修] や合同会社5W1Hコーチング学習プログラム」[一般公開セミナー][企業研修]でお伝えしている、「課題の適切な設定を重視」する内容に沿ったものです。

「デフォルト思考」の話と対比させるため、先ほどと同様に、1月7日の「変化促進研究会」で扱った内容で表現し直そうとすると、ここでご紹介したアプローチは、「センスメイキング」(Sensemaking)と呼ばれる内容と関連性が深そうだと思っています。

「センスメイキング」というのは、デフォルト思考に比べ、より「人間科学」(人類学、社会学、心理学、芸術、哲学、文学など)志向の観点から、「当事者がその事象をどのように体験したか?」といった切り口に焦点を当てる思考法です。当事者が、その事象を体験する「特定のコンテクスト」(状況、背景、前後関係、文脈)を重視し、暗黙の前提条件をあぶり出そうとするため、根本的に従来と異なる解決策を案出するのに優れた思考法だと認識しています。(※2)

※2 「デフォルト思考」と「センスメイキング」が焦点を向ける先の例

デフォルト思考→「この家には8つの部屋があり、あちらの家には6つの部屋がある。」(…定量的、客観的な「前景」情報

センスメイキング→「6つの部屋の内、彼女は黄色の部屋が一番のお氣に入りです。黄色の部屋には、彼女が祖母と過ごした懐かしい思い出がたくさんあるからです。」(…定性的、主観的な「背景」情報

[ 出典:Christian Madsbjerg 著『The Moment of Clarity: Using the Human Sciences to Solve Your Toughest Business Problems』を基に、合同会社5W1Hにて改変・補足]

いかがでしょうか? Yさんがコーチング・セッションで話した内容をそのまま掘り下げ、「TOEICの高得点習得を目指す効率的な英語学習方法・学習計画」に関する話を進めていくアプローチもあれば、「本当に、TOEICの高得点習得を目指すのでいいの?」というアプローチもあるということ、そして、取り扱う問題に応じて、「デフォルト思考」と「センスメイキング」をうまく組み合わせて用いるのが、「対症療法の繰り返しだけで終わらず、本質的問題解決を行う」上で重要そうだと感じていただけたでしょうか?

今回ご紹介したような、弊社流のアプローチ(考え方、話の進め方など)について学べる機会に興味をお持ちの方は、近日開催の、下記イベント情報を忘れずに確認なさってみてください!

●1月17日(土)【無料】
合同会社5W1H流「コーチング学習プログラム」説明会

1月22日(木)~23日(金)あるいは、
1月29日(土)~2月1日(日)開催の
フレームワーク質問力(R)
こちらのセミナーの内容は、合同会社5W1H流「コーチング学習プログラム」の第1~2日目の内容と同じとなっています。まず、こちらに参加されることで、内容や実用性、講師との相性などを確認され、その後、第3日目へと編入していただくことも可能です。

2月21日(土)スタート!
合同会社5W1H流「コーチング学習プログラム」
「課題の再設定」「システム思考」「ダブル・ループ学習」を重視し、「コーチングに適した心理学」「フレームワーク質問力(R)」を基盤としたプログラムです。 生涯役立つマインドセットとスキルを、向上心旺盛な学習仲間と一緒に身につけましょう!

 

さて今回は、「目の前に『英語学習を苦痛に感じる、社内教育担当者』がやってきたら?」という、12月28日の「コーチング漬け体験」で登場した話題を、1月7日の「変化促進研究会」で扱った切り口も踏まえて、共に検討して参りました。

あなたは、どういったことを考えたり、感じられたりしたでしょうか? 是非、仕事で関係していらっしゃるみなさんと話し合ってみてくださいね!

以上、今回の記事も、あなたの「QOLの向上」にとって、何か少しでもお役に立てれば幸いです。 2015年も、本ニューズレターのご愛顧、よろしくお願いいたします♪

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