人財と組織の育成を支援する「合同会社5W1H」のニューズレター

「納得できるように、物事を主体的に変えていく力」を持った人・組織こそが、「意義深い人生を送る能力」を持った人(から成る組織)であり、「贅沢さとは異なる豊かさを享受し、QOL(人生の質)向上を実現する能力」を持った人・組織である

モチベーション? 真逆な取締役? 自律型人財? 才能の限界?(第164号)

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こんにちは、合同会社5W1Hの高野潤一郎です。

先日、主に経営者・経営幹部・CLO(Chief Learning Officer、最高学習責任者)・HR(Human Resources、人的資源)担当者・OD(Organizational Development、組織開発)担当者向けに書いたFacebook記事:モチベーションについて…イヤなことをする代わりに対価を得る? では、

「研修や各種イベントなどで、一時的にモチベーションを高め、日常業務の中でモチベーションが低い状態に戻る」を繰り返すと、「いろいろ頑張っても、ウチの組織は変わらないんだな。やっぱり、ダメなんだな。」と無能感・無力感を学習してしまうことにもなりかねな

とした上で、「賃上げ」や「労働時間の短縮」で対応するのではなく、
組織のヴィジョンと個人の価値観をすり合わせる!
ことが大切だという考え方をご紹介していました。

上記の記事は、「やすやすと賃上げや労働時間の短縮に応じられない経営環境の下、どのように社員のモチベーションを高めたらよいか?」という質問に対して、「『問題症状 = チーム/組織のモチベーションが下がっている(ように思われる)』を無くせば、経営/事業上の問題が解決されるのだろうか?」という疑問を抱き、「『問題症状を無くせば、問題は解決する』という対症療法的アプローチへのアンチ・テーゼ」という意味も込めて回答しておりました。

どういうことかというと. . . . 「チーム/組織のモチベーションが下がっている」という認識を、「問題症状」の1つではなく、「問題」あるいは「問題の根本原因」だと捉えたため、「『個々人のモチベーションを上げる』ために何をすればいいのか?」について、対症療法を模索するようになってしまっていないかという点に関して、注意する必要があるのではないか?ということです。

まず、「チーム/組織が取り組んでいるプロジェクトAにおいて、Bという成果を得るために、Cを行う」のように、経営戦略・事業戦略などとの関係が明確な話などと異なり、「チーム/組織の問題・課題・目標」や「モチベーションを上げるのが、何にとって/誰のために良いのか?」などが不明なままでは、「余計な仕事を増やされた!」といった「押し付け感が満載」で、関係者には「『モチベーション・アップに向けた取り組み』へのモチベーション」が湧いてきません

そして、「目的」や「期待できる効果」が不明なため、「チーム/組織が望む結果を得るために、個々人がどんな場面でどんな行動をとればよいのかが不明」です。そのため、「○○という具体的な行動を起こそう!」というモチベーションが生じてきません

そもそも、「個々人が、チーム/組織が望む行動をとらないのは、個々人のモチベーションという "ひとつの要素" が欠けていることだけが原因である」という「1:1」対応で事態を捉えていることにリスクが潜んでいます。 「1:1の因果関係」だけで考えようとすると、例えば、「モチベーションは高いのだけれど、さまざまな障害の取り除き方がわからないだけである」といった可能性について検討せずに済ませてしまうことになるからです。 「個々人が、チーム/組織が望む行動をとるようになるには、モチベーションの有無/高低だけが、決定的に重要である」という思い込みをさせてしまっては、「目的や目標の達成に向けて ”あらゆる取り組み” をしていこう!」というモチベーションが消失してしまうのではないでしょうか?

チーム/組織が、ただただ「与えられた仕事をこなすために、モチベーションを上げましょう!」と働きかけても、個人のモチベーションを高めるのは困難です。しかし、「チーム/組織が望む結果/意義/価値に納得・同意でき、具体的に自分が何をどうすればよいのかがわかる」ようになれば、その結果(副次的効果 ※2)として、個人のモチベーションが向上するという可能性は高まります。 こういった状況を実現するには、チーム/組織の側が、個々人を束ねて動かしていくのに充分なだけ、各プロジェクトのヴィジョン、意味や価値などについて練り上げておくこと、そして、その重要性・有用性がメンバーに浸透するまで、手を替え品を替え、繰り返し情報発信することなどが求められます。…「個々人のモチベーション云々について語る前に、チーム/組織の側がしっかりしないといけない」ですね!

このように見てくると、やはり、「目的/目標を達成すること」や「問題を解決すること」と、「問題症状を無くすこと」の間には【 大きな違い 】があるのではないでしょうか? 今回は、こういった視点に基づいて、これまでニューズレターやFacebookページで取り上げてきた例も織り交ぜつつ、改めて弊社なりの持論をご紹介できればと思っています。

※1 「問題設定、課題設定、目標設定の違い」と「フレームワーク質問力®」の関係については、ニューズレター第155号:「課題設定」≠「目標設定」; 「飛んで火に入る夏の虫」!?から解説をご覧いただけます。

※2 副次的効果とは?
副次的効果とは、事前に予測していなかった作用・結果を指し、副作用とも呼ばれます。実際には、複雑に絡み合った複数の因果関係」に関する理解が足りていないという状況(しばしば直感に反するような結果ももたらされる状況)を表現しているに過ぎません。複雑な事象を扱う際には、原因と結果が、時間的にも空間的にも離れていることにも注意を払うよう求められる場合があります。目的達成や問題解決の支援を行うコーチングでは重要であるため、合同会社5W1H流「コーチング学習プログラム」の、第10日目、「システム思考の基礎と図解」で取り扱っています。

 

まずは「わかったつもり」にならない!真逆の「取締役」?

実は、企業研修であれ、人財育成コンサルティングであれ、エグゼクティブ・コーチングであれ、上述の『問題症状の解消 ≠ 問題の解決』のような話(…言葉や概念の『定義』の違いから問題が生じる;『適切な課題設定』がされていないなど)は、多くの方が想像される以上に頻繁に登場する話だというと、驚かれるでしょうか?

最初は、エグゼクティブ・コーチンの際に登場した事例についてご紹介しましょう。

これは、「伝統的な日本企業で『取締役』」を務めておられたHさんが、「グローバル企業の『取締役』」に転身され、困惑されたという話です。

・そもそも、取締役とは?

「取締役」とか言われても、馴染みの薄い話だと感じられる方がいらっしゃるかもしれませんので、Hさんから教えていただいた話を基に、必要最小限の内容について整理して、ごく簡単に説明を差し上げます。

「株式会社」の場合、「経営者が、株主の利益を上げるために適切に経営を行っているか」について、株主の立場で監督する仕組みが2種類あるそうです。 ひとつは「株主総会」ですが、年に1回といった頻度の集まりでは、経営者の日常業務を監督するのは難しいと思われます。 そこで、もうひとつ、より頻繁に身近なところからその役割を担おうということで、「取締役」で構成される「取締役会」というものが用意されているのです。

株主総会→ 取締役を選ぶ→ 取締役会が、経営者の経営を監督
経営者 ←経営の「執行」責任
取締役 ←経営の「監督」責任

Hさんが以前勤めていらっしゃった伝統的な日本企業の取締役会では、

取締役が、経営内容(業績、今後の見通し・事業計画など)を経営者に説明

経営者は、決断内容を取締役に指示

… 業務執行の責任者である「取締役の意識の向け先」は、自分の後継者や取締役の任命、報酬や経営戦略の決定権を持つ「経営者

… 経営の「執行」と「監督」の分離が曖昧(本来、取り締まる役の人物が、取り締まられる役を兼任)

だったのですが、グローバル企業に移られてからの取締役会では、

経営者が、経営内容を取締役会(取締役たち)に説明
取締役たちは、説明内容について経営者に質問(←経営者は、取締役会から評価される)
経営者は、自身の執行能力を示すために回答

… 「経営者の意識の向け先」は、(次期)経営者の任命・解任の人事や報酬、経営戦略の決定権を持つ「取締役会」(取締役たち)

… 経営の「執行」と「監督」の分離が明確

となり、「『取締役』の果たす役割がまるっきり変わってしまった!」という話をされていました。 同じ「取締役」という言葉を用いているのに、その言葉の「意味」がまったく異なるという事例です。

こういった例を通して、“わかったつもり” にならず、違和感を覚えたことや重要な事柄などに関しては、”丁寧な確認” を行い、「言葉や概念の定義の違いを無くす」ことが、思いのほか重要であると理解していただければ幸いです。

※3 「わかったつもりにならない」について、こちらから人事コンサルタントのMさんから寄せられた声もお読みいただけます。

※4 コーチング」という言葉の定義も、教える団体などによって異なります。
•    参加者から「コーチング」の名称変更を提案されるような始末です....
その他にも、「言葉・概念の定義」に関わる記事を2つご紹介しておきます。
•    時間管理?目標管理?何言っているの? …営業にも役立つとは?
•    何を「管理」するのが「管理職」?

 

「目的」と「手段」、「原因」と「結果」を混同しない…適切な「課題設定」を行う!

冒頭でご紹介したモチベーションの話を思い出してみてください。

「モチベーションを上げること」を「目的」とするとうまくいかないことが多いけれど、適切な目的の達成に向けて適切な取り組みを行うと、「結果」として「モチベーションが高まる」ことも期待できる!ということで、やはり、「課題設定」が大切だという話でした。

これまで配信したニューズレターにもいくつか同様の例があるのですが、ここでは、「いわゆる "自律型人財育成" を目指すのは適切か?」の例を取り上げておきましょう。

2010年12月31日配信のニューズレター第74号:いわゆる"自律型人財育成"を目指すのは適切か? で初めて取り上げ、ニューズレター第99号:ノーベル経済学賞と、社内コーチの限界 では、「『自発的にやりなさい』という命令と同じく、『自律型人材を育成する』というのは、ダブル・バインドになっている」という切り口から、下記のような補足解説を加えておりました。


「M」 =「Mさんの会社の人財育成担当部署」
「社員」=「企業研修の対象と想定している社員」と略記。

Mは、企業研修を通して、「社員を育成」しようと計画している。 Mは、「研修受講後の社員が、主体的な行動を取ること」を欲する。

→ Mは、社員がMの期待に応えることを欲している。

→ Mは、Mが欲するからではなく、社員が自ら、社員の意志で、主体的な行動を取って欲しいと考えている。
… 社員が、単に、指示や命令以外の行動を取るだけではなく、社員自らが望んだために、その行動を取るという状況が常態化することを、Mは欲している。
  ↓
「Mが欲したから、指示や命令以外の行動を取る」のでは、社員が「主体的な行動」を起こしたとは言えない!
  &
社員の主体的な行動とは、「Mが望んだわけではないことを、社員が望んで行うこと」である!

∴したがって、「自律型人財育成を目指す」という課題の設定の仕方でMが社員に働きかけると、矛盾する内容の命令・指示に、社員はMの意図が正確につかめないため、動けない社員や自己防衛する社員が増えるといった状況にもなりかねない。


そして、ニューズレター第130号:「影響力の輪」の内側 or 外側?;「知識―○識―△力」?では、例えば「組織の長期的繁栄を可能にする姿勢を持った人財を継続的に輩出するには?」といった課題設定を行って議論を進めると、今後の取り組みの副次的効果として「自律型人財/自立型人財が、勝手に育つことが期待できそうだ」という話をご紹介していました。

「課題設定の重要性」について、改めて認識していただけたでしょうか?
… たとえ、ロジカル・シンキングに長けていて、着実に論理を重ねていくことができたとしても、「望んでいない目的地に到着」していては仕方がないのです。

※5 「課題の再設定」というコミュニケーションは、面倒なだけではないのか?とお感じになった方向けの参考情報↓です。
•    「一発描き」ではなく「デッサン」で! それがコーチングだ。

 

課題が適切に設定できても、多様な価値観の持ち主に動いてもらわないと!

前段までの話を踏まえ、“わかったつもり” にならず、「言葉や概念の定義の違いを無くす」ことに成功し、「適切に課題を設定する」ことに成功したとしても、多様な価値観から成るチーム/組織のメンバーを束ねて動かしていくには、日常業務におけるコミュニケーション上の問題が出てくることがあります。

これは、どんなに立派な「制度」や「仕組み」を用意したとしても、上手に「運用」できなければ、「絵に描いた餅」でしかない!という話(※6)と一緒ですね。

※6 上手に運用できなければ、立派な制度や仕組みも役に立たない!

結局のところ、組織の各種「制度」や「仕組み」というものは、組織を適切に動かしていくための「必要条件」(あるいはハード面)に過ぎず、それらを活かす「人財」(の志、意欲、能力、コミュニケーションの在り方など)などの十分条件」(あるいはソフト面)が伴わなければ、意味のないものとなってしまいます。

いずれも「目的達成の『条件』」でしかないわけで、具体的に「現状どうなっていて、状態がどうなることを望むのか?それを実現するために、独自の課題をどのように設定すべきなのか?」といった事柄について、「関係者が理解を共有し、氣持ちを揃えておく」ことが重要ではないでしょうか?

多様な価値観を持つチーム/組織のメンバーに動いてもらう(チーム/組織のメンバーを束ねて動かしていく)ためには、メンバー全員に対して同じ話をしているだけでは不充分で、個別に、相手に合わせた多種多様なコミュニケーションを行うことも求められます。

例えば、過去にご紹介したものとして、「才能がないからやらない」という発言をする人の話がありました(※7)。

こういった人物にどのように対応するかは、コミュニケーションの目的や組織の状況、プロジェクトの切迫度などによって、柔軟に変化させなければいけません。

一般的なコーチングを学ばれた方であれば、「○○さんは、才能に限界があるとお考えなのですね。 私は、意欲があって、やり方さえわかれば、限界なんてない!と思っているので、『才能がないからやらない』なって考えたこともありませんでした。 例えば、人生の一発逆転に成功された方には△△さんのような例があります。…」といった接し方をされるかもしれません。

また、「人財が育つまで待っているだけの組織体力がない」といった状況であれば、「才能に限界が見えてきたので、あなたには他の仕事を担当してもらう」などという対応(…人事異動を含む)が適切な場合もあるかもしれません。

あるいは、弊社流コーチンのように、一旦、「目的達成・問題解決に役立つ話の本質」に立ち戻った確認を行うアプローチ(※8)や、「これまでに検討したこともなかった可能性について探求した上で、現実的な制約条件に基づいて選択肢を絞り込んでいく」というアプローチ(※9)を採用することも可能です。

ここでは、「『才能がないからやらない』という発言をする人にどのように対応するか?」という例を通して、「『どういったコミュニケーションを行うか?』によって、相手に与える影響や解決策などがまったく変わってきそうだ」(※10)ということ、そして、「多様な価値観を持つチーム/組織のメンバーに動いてもらう(チーム/組織のメンバーを束ねて動かしていく)ためには、個別の相手や状況に合わせた対話を行うこと」が重要であることに、改めて氣づいていただければと思います。

※7 ニューズレター第113号:「やらない」理由としての「才能」

※8 「目的達成・問題解決を実現できるようにするには、何をどうすれば良いだろう?」という「話の全体像」を確認した上で、「才能に関する話題」(…相手の『できない理由探し & 自己正当化』を手伝う話)を進めることが有益だと思えるかどうか、相手に判断を促します

※9 「『すべてを自分の力でやらなければいけない』と考えると、自分の才能の有無について考えたくなるのかもしれませんね。 仮に、他者/他社や全然別の技術など、利用可能なリソースは何を使ってもいいとしたら、どういったアイディアが浮かんできますか?」などといった質問を組み上げていくことで、『協創対話』(←弊社流コーチング)を促すことも可能です。

※10 フレームワーク質問力®、合同会社5W1Hコーチングのアプローチに興味をお持ちであれば、下記の参考情報もご覧ください。
•    『期待できる効果12種類』…興味、お持ちですか?
•    2極化する「コミュニケーション学習」…あなたはどちら?

上記のような考え方に基づいたコーチングを学べるのが、
•    合同会社5W1H流コーチング学習プログラム(CLP)
です。

CLPは、最初の2日間の内容が、「フレームワーク質問力® 」の内容と同じであるため、10月11日(土)~12日(日)フレームワーク質問力®にご参加いただけるようであれば、10月18日(土)に実施のCLP第3日目以降、【 学び漏れなく 】CLPの全日程にご参加いただくことが可能です!

もし、弊社流コーチングを学ぶことに興味をお持ちであれば、こちら↓から詳細を確認なさってみてください。
•    合同会社5W1H流コーチング学習プログラム(CLP)

※ご欠席者が複数いらっしゃった回があれば、別途フォローアップ学習の場を用意することも想定しておりますし、次期以降での振替参加も可能ですので、お仕事の都合等で、プログラムをご欠席されることがある場合にも、ご安心ください。

その他、プログラムの参加に関してご質問などありましたら、こちらから、お氣軽にお問い合わせくださいませ。

また、日常業務の中でコーチング以上に頻繁に用いるかもしれないコミュニケーションとして、「適切なフィードバックの仕方」について学ぶ場もご用意しております。

•    11月7日(金)開催
チームで人財を育成する『ファクト・ベイスト・フィードバック』
~現場・面談で学び合い、業績向上につなげるコミュニケーション~

併せて、詳細情報をご確認いただければ幸いです。

さて今回は、「やすやすと賃上げや労働時間の短縮に応じられない経営環境の下、どのように社員のモチベーションを高めたらよいか?」という質問に回答する記事を書いたという話から、「目的/目標を達成すること」や「問題を解決すること」と、「問題症状を無くすこと」の間には【 大きな違い 】がありますよ!ということで、「課題設定の重要性」や「関係者を巻き込んでいくコミュニケーションの重要性」に絡んで、いくつかの話を展開して参りました。

こうした内容は、以前配信した、
・ニューズレター第157号: 3つの報告書に見る「組織・人財領域で重視されている、企業の経営課題」とは?
の中で、

「組織・人財領域で重視されている、企業の経営課題」について、現在、多くの日本企業は、『部長・課長の育成』が重要課題だと考えている。
…『部長育成』では課題設定能力の向上、『課長育成』では課題への取り組みに人を巻き込み束ねていくコミュニケーション能力の向上が要となる

と書いていたことと通じるものがあるように思います。 あなたは、どういったことを考えたり、感じられたりしたでしょうか?

以上、今回の記事も、あなたの「QOLの向上」にとって、何か少しでもお役に立てれば幸いです。 それでは、また次回のニューズレターでお会いしましょう♪

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