人財と組織の育成を支援する「合同会社5W1H」のニューズレター

「納得できるように、物事を主体的に変えていく力」を持った人・組織こそが、「意義深い人生を送る能力」を持った人(から成る組織)であり、「贅沢さとは異なる豊かさを享受し、QOL(人生の質)向上を実現する能力」を持った人・組織である

幸福なうつ状態とグローバル人財育成競争; 土壌を豊かにする!(第97号)

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こんにちは、合同会社5W1H代表の高野潤一郎です。

このところ、人財育成のお仕事をされている方から「グローバル人財育成」という言葉をやたらとうかがうので、今回は、この辺りの話について、あれこれ書いてみようと思います。

 

グローバル人財育成競争

パナソニックの2011年春の新卒採用の約8割が国外の現地採用、2012年春には、ファーストリテイリングの8割、ソニーの3割、楽天の3割、日立の1割が外国人となるよう新卒社員を採用する方針を発表するなど、日本企業においても、人材のグローバル獲得競争が激化してきています。

…2011年02月25日配信の「今後、企業研修担当は何をするといいのか?」では、 御社に必要なのは「人材」か「人財」か? といった小見出しの文章も紹介しておりました。

…2010年07月21日配信の「人財育成動向2010年版 & 本音を言わない職場対策」では、「今後の人材開発・人財育成は、『GE流』なのか、『Google流』なのか」について紹介しておりました。

…例えば、リーダーシップならハーバード・ビジネス・スクール、ベンチャー起業ならスタンフォード大学、ファイナンスならペンシルベニア大学ウォートン校、企業統治ならイェール大学...など、企業も得意分野を持つ大学から人材を得ようと努めたりしているようです。 また、大学側も、自国籍の学生だけで世界最高の大学を築くのは幻想だとして、英語を公用語化するところが世界的に増えています。

…2008年8月4日配信の「メタ・コーチング@ロッキー山脈のふもと」では、


多くの普通の人々が、『自分たちが住んでいる国は、小さな国なので、人に投資しないと生き残れない。だから、教育にお金をかける。生きていく上で、起業家精神は基本的な資質として必要なものである。』と考えていることが知られています。

そして、『情報が溢れ、変化が激しい社会では、「知識の暗記」だけでは生き残れない。教育者自身が「正解」などわからないのだから、生徒に教えることなどできない。』と考え、

教育者は、生徒の中から、創造性、コミュニケーション能力、リーダーシップ...といったものを"引き出す"「ファシリテーター」役に徹する』という姿勢を打ち出しています。


という北欧諸国の話も紹介しておりました。

…昨年、国民1人当たりのGDPが日本を超えたシンガポールの建国の父とされるリー・クワンユー(Lee Kuan Yew, 李光耀)さんは、「資源の乏しいシンガポールのような小国にとって、人材は決定的な要素と言える」と前々から発言されています。

 

そして、人口減少(少子化×高齢化)のために、さまざまな市場の縮小が見込まれている日本から脱出したいと考えている中学生・高校生や、上記の報道の影響を受けた教育熱心な親の間では、「グローバルに活躍できる人材になる/する」ために、東京大学京都大学などではなく、ハーバード大学やMITなどへの入学を目指す人が増えているようです。

一方、現状に満足し、競争を避け、自ら変わろうとする意欲に欠け、内向きの閉鎖社会を好む傾向を示す人々が大勢を占める状況を見て、「日本は、"幸福なうつ状態"(Happy Depression)に陥っている」と評する人が出てきていることも確かです。

※「ずっと日本から出ずに、日本人たちだけで固まって働くから、自分には関係ないさ」とか「日本にいても、英語は話せるようになるし、専門分野の学習も可能だから、外国に行ってまで学ぶ必要はないし、グローバルにも活躍できる人物になれるさ!」と考える人たちもいると思いますし、一定数はそのように考える人がいていいと思います。

しかし...「グローバルにも活躍できる人物」像について話していると、私は他の人たちと、ちょっと視点が違うらしいので、まず、その辺りについて説明をしようと思います。

今のところ私は、「英語が話せて、特定分野の専門知識を持っている人」がグローバル人材・グローバル人財だとは思っていません。

なぜなら、グローバル・ビジネスが当たり前になりつつある今、国外の現地にいる、【 自分とは異なる人々(…価値観、人種、年齢、宗教、性別、文化、慣習、経験などが異なる人々)をリードしていける人材・人財 】が、今まで以上に強く求められているグローバル人材・グローバル人財像だと考えているからです(…質も人数も)。

英語と専門知識レベルが同等の外国人"事務員・技術者など"は、世界中にたくさんいます。もし、英語と専門知識レベルが同等であれば、日本人を雇うよりも、雇用賃金が低くて済む他国の人材を雇った方が、企業にとってはありがたいことが多いでしょう。

ですから、日本人である私たちは、たとえ世界のどこで働けるとしても、単なる従業員ではなく、【 自分とは異なる人々をリードしていける人材・人財 】になることが大切なのではないかと考えています。

では、自分とは異なる人々をリードしていける人材・人財になるには、あるいは、社員をそういった人物に育てていくためには、どういった点に配慮する必要があるのでしょうか?

 

たくさん読んで、考えて、書いて、議論する学習;対話ベースの個別指導

今後は、インターネットをはじめとする各種技術革新等もあって、私たちが、情報や知識を入手するのは、今よりさらに容易になるだろうと予想できます。
(すでに、大学・大学院の講義レベルの情報が無料でネット配信されたり、書籍・電子書籍として流通し出していますし。企業でも、eラーニング・システムの導入も進んでいるようです。)

このように考えると、企業における人財育成部署が、ただ単に、知識の教授を主目的とする研修をやりっ放しにしていていい時代は過ぎ去ったのだと思います。

企業も、知識の教授によって、グローバル人財を育成可能だとは思っていないのではないでしょうか。

…人財育成の部署が、人材の評価や配置などを行う人事部の下位に甘んじているようでは、グローバル人財育成の舞台で後れを取ります。人財育成戦略は、事業戦略とを密接に結びつけ、経営幹部層が本氣で推進していく必要があります。(この話は長くなりそうなので、また別の機会に!)

 

【 閑話:私の大学時代の英語 】

私自身が受けた理工系の教育を振り返ると...

  • 大学3年生の頃に講義を担当する教授のところに質問をしに行くと、「それは良い指摘だと思う。 著者に手紙を書いて直接質問してみては? 忙しい人だから返事がもらえるのは難しいかもしれないけれど、勉強になるよ。」(※1)と言われたり、
  • 大学4年生の卒業研究は、研究室の学生全員が、米国ボストン開催の国際学会で発表するよう言われたり、(※2)
  • 大学院の講義でも、「この分野のテキストは、日本語の書籍がないので、英語の本でやります」(※3)と、英語の使用が求められる機会が増えてきていたように感じます。

理工系の教育をバックグラウンドとして持つ人は、特に、「自身の調査や研究の成果、あるいは自分なりの意見を日本語で発信しても、グローバルな影響力は発揮できない。グローバル人財を自称する人であれば英語で情報発信するのが当たり前。」といった感覚を持っているのではないでしょうか。

※1
このときに読んでいたテキストは、「キッテル固体物理学入門」(…現在は、第8版になっているんですねぇ。)でした。著者の Charles Kittel 教授は、William Bradford Shockley Jr. 教授(ノーベル物理学賞1回受賞)や John Bardeen 教授(ノーベル物理学賞2回受賞)と同僚だったこともありますが、私の恩師は、この Bardeen 教授から直接物理を学んだ方ですし、「Kittel 教授に手紙を書け」というのは普通の発言だったのかもしれませんね。

※2
卒業研究の発表をしに米国へ行ったのが、私の初外国旅行でした。(本州から出たことがなかったので、北海道・四国・九州の前に、米国に行くことになってしまいました。)

※3
これは確か、オプトエレクトロニクスかフォトニクスの講義だったと思います。

 

大学院の主眼が「研究」だとすると、大学の主眼たる「教育」で核を成すのは、すでに「知識の教授」(…一方向の情報伝達)ではなくなっているのではないかと思います。

もちろん、「体系的な知識の教授」ということでは、まだ意味があるでしょうが、それよりもむしろ、グローバル人財の育成ということで言えば、他の側面の重要度が増しているように、私は考えています。

私が、「グローバル人財の育成という切り口」で、特に大切だと思っている2つの要素について、説明する良い例があるので、次にご紹介しようと思います。

それは、英国ケンブリッジ大学で「supervisions」、英国オックスフォード大学では「tutorials」と呼ばれて始まり、現在は、他の国の大学でも採用されている教育手法、「チュートリアル(個別指導)制度」です。

…企業で言えば、「メンター制度」あるいは「コーチング制度」に相当するかもしれません。

 

チュートリアルのやり方はこうです。

通常、大学教員1人が学生1~3人を担当し、週に1回1時間程度、学生が提出したレポートを基に、教員と学生の間で議論、質疑、対話(ダイアローグ)を行います。

学生は、レポート提出のために、毎週数冊の課題図書を読み、与えられた課題に応じた独自の考察を、A4用紙10枚程度にまとめます(…本の要約ではありません)。

講義はチュートリアルを補助する役割で、科目ごとの成績は、主に、1科目当たり3時間程度の論述試験の評価を基に決まります。

オックスブリッジ(Oxbridge:ケンブリッジ大学とオックスフォード大学の併称)では、こういったチュートリアルを柱にして、(どのような科目の学習を通してであれ)「クリティカル・シンキング能力」と「コミュニケーション能力」(…両方併せて、思考力 [分析力、総合力]・表現力)を育てることを目指しています

英語を身につけさえすれば、あとは与えられた課題をこなすだけで良いと考え、自ら付加価値を生み出そうとしない学習姿勢とは、随分異なりますね。

※「チュートリアル」に関する参考情報
"THE OXFORD TUTORIAL:Thanks, you taught me how to think", David Palfreyman

 

もちろん、グローバル人材・人財になる/するには、「観察」「仮説」「実験」「検証」「フィードバック」といった事柄に関する能力の育成も大切でしょうし、「人的ネットワークの構築」(…eラーニングとは異なり、大学・大学院教育の価値はこの辺りも大きい!)といった要素も大切だと思っていますが、これらの基盤にあるのも、「クリティカル・シンキング能力」と「コミュニケーション能力」なのではないでしょうか。

私は、個々の専門分野の知識は、その都度、独学でも身につけることができるのかもしれないけれど、【 自分とは異なる人々をリードしていける人材・人財 】の育成を目指すのであれば、「クリティカル・シンキング能力」と「コミュニケーション能力」を醸成することが大切、そしてそれには、チュートリアル(企業で言えば、メンタリングやコーチングを活用した「対話ベースの個別指導」)が有効ではないかと考えています。

そして、まだ端緒を開いたばかりかもしれませんが、「クリティカル・シンキング能力」と「コミュニケーション能力」の醸成について、弊社が具体的にどのような場面で重視しているのかについて、3つのこだわりという形でご紹介しようと思います。

 

勉強会や研究会でのこだわり:「"建設的な"批判精神 」

先日始まったばかりの、夜の勉強会(MOS)では、初参加された方々から「権威ある人が書いた本でも、内容に疑問を持っていいんですね」「今までの本の読み方と違っていて、とても刺激を受けました」といった感想をいただくことができました。

先日の配布資料をご覧になることで、「建設的な批判精神」「独学とは違った価値の創造」を重視している姿勢が伝わると嬉しいです。

( 21日開催の第2回には、見学者もお見えになる予定ですし、途中参加も受け付け中です。初回からの参加者と比べても、まだ、ほとんどハンディキャップなしで途中参加可能ですので、MOSに興味をお持ちの方は、こちらからお氣軽にご連絡ください。)

英語運用能力の向上ばかりが騒がれて、あまり目立って取り上げられていませんが、これまで述べてきた通り、「"建設的な"批判精神」を持って学ぶ、議論する、意志決定する...といった部分については、グローバル・ビジネスが当たり前になってくる現代、日本人が強化する必要のある姿勢だと、私は考えています。
…「カースト制度が強要したのは従順さであった。従順な犬は好ましいかもしれないが、"盲目的に従順な人"には高い価値を置かない。」というのが、グローバルな認識ではないでしょうか。

ビジネスの分野でも、経験則を主流とする思考法や、MBAプログラムの限界が指摘される昨今では、仮説形成と検証、システム思考、問題設定能力、概念化、メタ認知を活用した内省などが注目を集めており、それらの基盤の1つとなっているのが「"建設的な"批判精神」[→クリティカル・シンキング(批判的思考法)]であると私は考え、夜の勉強会や朝の研究会で重視しています。

 

一般公開セミナー/研修でのこだわり

「質問力」「コンフリクト・マネジメント入門」などでは、例えば、2011年07月04日配信の「人によって現実が異なるとはこういうこと!;対立の価値」 の 図1:事実認識(主観的世界)の違い についての理解を基に、「クリティカル・シンキング能力」と「コミュニケーション能力」の向上を図りつつ、「認識のズレ」や「対立」を問題解決・イノベーションに活かす演習を取り入れています。

 

「土壌を豊かにするコーチング」というこだわり

次世代のリーダーを生み出す土壌を豊かにすることは、競争優位、事業規模、利益のすべての面で企業自体の成長を促すことに繋がる

→ 企業を経営するとは、次の経営者を育てることでもある

→ 「リーダーシップ開発コーチング」を実施することは、経営の健全化につながる

 

私は、上記のような考えを持っているため、「すぐに結果を出します」と言っているコーチの話を聞くと、

「クライアント企業内には、問題解決できる人材・人財がいなかったとでも言っているのか?」

「水をやってすぐに芽を出し、すぐ伸びる、”もやし”を育てていると主張したいのか?」

などと思います。

 

スピードや効率は大切かもしれませんが、それらばかり追いかけるのは、せいぜい十数センチの高さを目指す "もやし" のコーチングであって、土壌を整えてしっかりと根を張らせ、風雨に耐え抜く、高さ十数メートルになるような "樹木" を育成するコーチングとは、アプローチが異なって当然だと考えています。

弊社では、芽が出てから、何日目で何センチに伸びたとか、幹の太さがどうなったとか、収穫できた果実は何キログラムだとか…そういう、比較的計測しやすい事柄ばかりに関心を向けるクライアントよりも、まずは、「土壌を豊かにすること」(…目的によって何を計測すればいいのかが変わるし、定性的な評価と定量的な評価をどのようにミックスさせればいいのかについて未知の部分が多く、計測や評価に困難を伴うことも多い)や「根をしっかり張らせること」(…樹木が大きく育つために、栄養摂取の面からも、地表に出ている部分を支えるという強度の面からも重要)に目を向けることを選ぶ、本格派のクライアントさまの満足度が高いことをお伝えしておこうと思います

…「クリティカル・シンキング能力」「コミュニケーション能力」「対話(ダイアローグ)による学習効果」を使い倒すサービスです。

 

さて今回は、「グローバルに活躍できる人材になる/する」ことに関心を持つ人が増えてきたけれども、「英語が話せて、特定分野の専門知識を持っている人」がグローバル人材/人財なのではなくて、「自分とは異なる人々をリードしていける人材・人財 になる」ことが大切なのではないかという持論をご紹介しました。

そして、そのためには、「たくさん読んで、考えて、書いて、議論する学習」「対話ベースの個別指導」によって、クリティカル・シンキング能力」と「コミュニケーション能力」を醸成することが有効だと考えており、自社の活動の中で、それをどのように実践しているのかといった事柄についてご紹介してきました。

こういった刺激を基に、あなたは何を感じ、考えられたのでしょうか?

 

何か少しでもお役にたてれば幸いです。

それでは、また次回のニューズレターでお会いしましょう♪

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