人財と組織の育成を支援する「合同会社5W1H」のニューズレター

「納得できるように、物事を主体的に変えていく力」を持った人・組織こそが、「意義深い人生を送る能力」を持った人(から成る組織)であり、「贅沢さとは異なる豊かさを享受し、QOL(人生の質)向上を実現する能力」を持った人・組織である

『デジタル化』だからこそ『非認知能力』? 『何に』注力するのか?(第184号)

follow us in feedly
Send to Kindle

「苦痛を感じていますが、コンピューター・プログラミングを学び始めています。データ・サイエンティストになれたら、食いっぱぐれないかなと思いまして…」

「人材紹介会社の方から、異業種への転職には、こういう道筋を通って、数年かかると聞きました…」

コンサルティングや研修の実施先にお勤めの方や、コーチング利用者の方から『キャリア』についての考えを聴いていると、『今、流行っていることを学ぼうとする人』や『大学院に入ったり、資格を取得したりして、特定分野について一通り学んでから新しいことを始めたい人』が非常に多いことに氣づきます。

表現を変えていうなら、現在の自分のキャリアについて方向修正を掛けようと思っている人のうち、結構高い割合の人が、「『学ぶ期間が一区切りつく頃には、別のモノが流行っていて、また他者の後追いを開始する』というパターンを繰り返し、いつまで経っても学んでばかりで、『ビジネスへの応用実践者』や『新領域のパイオニア』にはなれずに、キャリア上の不満を抱え続ける状態にある」という側面をお持ちのようなのです。

今回は、『キャリア・デザインに役立つ、個人のスキル獲得』に関心をお持ちの方向けに、『今、自分は何に注力することが望ましい状況を実現するのに有効そうか?』というテーマについて考えていく際の参考になればと、弊社がどんな『考えの進め方』をしたのか、そのプロセスをご紹介できればと思っています。

あなたが、自分なりの考えを進めていく際の『発想の刺激』といった形で、参考にしていただければ幸いです。

 

もし、『デジタル化』の動向を基盤にして考えるなら…

かつて、『ヒトの体力』が『蒸氣機関』や『内燃機関』などに置き換わっていったように、今日では、『ヒトの認知能力の一部』を『人工知能(AI)搭載機械』などで置き換えるといった話を見聞きする機会が増えてきています。

また、『SMACS』(※1)や『IoT』(※2)などを活用した『デジタル化』(リアルと融合するデジタル)の進展についても話題となっています。 こうしたデジタル化の流れは、『知識の入手や技術のコピーを容易にする』ため、『ハード』 [ハイ・スピードや低コストを可能にする技術、サプライ・チェーンやロジスティックスの効率など] のもたらす競争優位性を『束の間のもの』にしてしまいます

※1 SMACS
Social:ソーシャル、Mobility:モビリティ、Analytics:アナリティクス、Cloud:クラウド、Sensor:センサー あるいは Security:セキュリティ の頭文字からなる略語。

※2 IoT
Internet of Things(モノのインターネット)の略語。

『ヒトの認知能力の一部』が『AI』などに置き換わり、リアルと融合する方向で『デジタル化』が進むという潮流を踏まえると、私たちはどういったことについて考え、取り組んでいくことが大切でしょうか?

いくつもの切り口がありそうですが、網羅的に対応することが可能な大企業とは異なり、『フレームワーク質問力』を基盤とし、『クリエイティブで、粘り強い!の実現を目指す人と組織のパートナー』として事業展開している弊社にとっては、例えば、『芸術性』や『身体性』を中心に据えるようなアプローチは時期尚早と感じています。

上記のようにして他の要素についても検討していくと、現時点における弊社なりの方向性としては、「『ヒトどうし』および『ヒトと機械』の『協創および協働』をより望ましいものにしていくためのお手伝い(…組織やコミュニティといった、『ヴァーチャル&リアルな場』との関わり方も含めて)」に注力するというのが、最も自然で受け容れやすい選択になるだろうと思っています。

もう少し噛み砕いて表現するなら、次のような形でしょうか。

A)『視点の変更や、異なる考え方の統合が行える人・組織にしていく』といった意味で、『クリエイティビティ(創造性)』を高めるお手伝い

B)『与えられた問題を解く力が高い機械』『問題あるいは課題を設定する能力が勝るヒト』との『協働』を容易にするお手伝い

C)『粘り強い対話や、継続的な改善の実行に取り組める人・組織にしていく』といった意味で、『非認知能力』(…後述)を高めるお手伝い

D)『複製や譲渡が可能な情報』(マニュアル化された一連の手続きなど)とは異なり、さまざまな経験や解釈、分析や熟慮などを経て『目的達成や問題解決に役立つ、実践的な知識』が身につくように『情報をパーソナライズ(個人化)・血肉化』したり、『実践知を組織に浸透させるプロセス』を容易にしたりするお手伝い

後日、表現を修正するとしても、結局は、一時的な競争優位性を得る『ハード』ではなく、弊社は、組織に【持続的な】繁栄をもたらすのに有効なものとしての『ソフト』 [信頼、適応を容易にする学習能力、チーム、企業文化、ストーリーなど] の重要性が【相対的に】高まってきているという認識を背景にして、価値の創出に務める道を選ぶでしょう。

…上記の方針を持っていると、例えば、「他社様で提供されているようなロジカル・シンキング(論理的思考力)」「義務教育を終え、高校や大学あるいは大学院などで身につけてきているはずの考え方」「ヒトよりも機械の優位性が見込める種類の推論」に関しては、弊社は「依頼されれば、他のコンテンツと絡めた形で研修実施を検討することがあるかもしれないけれど、自ら積極的には手を出さない!(他社様にお任せする)」などといった意思決定が容易になります。

ここまででお示ししたような『考えの進め方』の始まりとして、まず「音楽業界に見られるような『CD販売→ダウンロード販売→定額ストリーミング配信』といった、『デジタル化の進展に伴うビジネス形態の変化』は、幅広い領域で見られるようになってきている」といった認識と共に、「LMS(Learning Management System:学習管理システム)や携帯アプリに代表されるようなeラーニング』さえあれば『集合研修』は不要ではないか?と考える人々が出てきている」という認識がありました。

そして、「『デジタル化の流れ』と、弊社事業内容の内で今回の『キャリア・デザインに役立つ、個人のスキル獲得』といった内容に関係が深い『企業研修/一般公開セミナー』などとの望ましい『共存共栄』関係にはどういったものがありうるのか?」という意識を持って、考えを進めてきました。

人や会社によっては、『○○といった形のグローバル人財が求められている』といった認識を基にして考えを進めたり、『超高齢社会では○○といった人財が求められている』といった認識を基にして考えを進めたりすることで、異なる方針や結論を採択されると思います。

このように、問題意識の持ち方』(何を氣にするか)や『課題設定の仕方』(何に取り組むことを選ぶのか)などによって、『納得解』(≠唯一最善解)が大きく異なってきます(※3)

さて、あなた個人のキャリアについて考える場面では『今、自分は何に注力することが望ましい状況を実現するのに有効そうか?』というテーマについて、どういった切り口を採用するのが良さそうでしょうか?

※3 「課題設定能力」≒「事業戦略策定能力」?という話については、ニューズレター第154号をご参照ください。
「事業戦略」と「リベラル・アーツ」

 

機械と競合する『認知能力』だけでなく、『非認知能力』を積極的に伸ばす!

前段のA)、B)に関しては、これまでのニューズレターでも、クリティカル・シンキング』や『課題設定』が重要!という形で、「クリエイティブで粘り強い『協創対話』(※4)」について、繰り返しお伝えしてきています。

※4 『協創対話』
フレームワーク質問力®』を基盤とする『合同会社5W1H流コーチング学習プログラム』でお伝えしている内容を指しています。

そこで今回は、『協創対話』の後半部分、『粘り強い』と関係が深いC)、D)について、その背景となっている考え方についてご紹介していこうと思います。

最初は、C)に登場する非認知能力』(Non Cognitive Skills, ※5、6)についてです。

『認知能力』は、IQで測られるような、理解・判断・論理などの知的機能を指しますが、『非認知能力』とは、『適切な目標を設定して、諦めず継続的に努力し達成する』『他者の氣持ちを感じ取ったり自分の氣持ちを表現したりしながら、建設的な関係を確立して維持する』『責任ある意思決定を行う』ために必要な能力のことで、『挑戦する心、協調性、自制心、自尊心、勤勉性、忍耐強さ、自己規律、良心など』といった側面を含みます。 (文脈にもよるのですが、『非認知能力』について、別の表現で短く言い換える場合には、私は『粘り強く、やり抜く力』と呼んだりしています。)

もう少し具体的に言うと…次のような能力を非認知能力と呼んだり、こういった体験を通して非認知能力が高まったりするとされています。

• 他者や自分の感情を認識できる

• 他者と自分の違いを尊重することができる

• 強い感情の表出を抑制したり、管理したりできる

• 他者の立場で考え、その感情を察することができる

• 他者と正確かつ明瞭にコミュニケーションできる

• 他者に働きかけ、建設的な関係を構築することができる

• 活躍が求められている領域や自他の強みを認識できる

• 問題を適切に認識することができる

• 建設的で現実的な目標設定ができる

• 問題解決や意思決定、計画の立案ができる

• 仕事仲間からの無理強いに抵抗することができる

• 協力したり交渉したりして、非暴力的に対立に対処できる

• グループで効果的に働くことができる

• 他者に助けを求めたり、他者を助けたりすることができる

• 倫理的にも社会的にも責任のある言動を選択することができる

など

※5OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development;経済協力開発機構)では、『社会情動的スキル』(Social and Emotional Skills)と呼ばれることもあります。

※6 「非認知能力は、先天的知能とはほとんど相関がみられない」と言われています。例:"A Meta-Analysis of the Convergent Validity of Self-Control Measures", Angela Lee Duckworth and Margaret L. Kern, Journal of Research in Personality, 2011 Jun 1; 45(3): 259–268. こういった理解も進み、従来「氣質や性格だからと諦める人も多かった」ようなのですが、近年では、「学習によって高めることができる!」という可能性が強調されるようになってきています。

弊社が『非認知能力を重視しよう!』とする背景にあるのは、「共有するヴィジョンの実現に向けて、各自が目標や意欲、関心などを持って『協働』する過程では、『社会性』が不可欠だ」という考え方です。

『知識の入手や技術のコピーを容易にする、デジタル化の時代』において、相対的な価値が高まる事柄のひとつは、『ヒトどうしの、協創および協働』(社会性)であり、『社会情動的スキル』とも呼ばれる『非認知能力』を高めておくことが大切ではないかと考えています。

これまでの教育や、企業に入社してからの研修などでは、機械と競合する『認知能力』に重きを置いた学習を繰り返してきたわけですが、『充実感を覚えたり、意義を感じたりできる目的や目標に取り組む』よう意識を払うといった形で、私たちには『非認知能力』を発揮し合っていくことが求められるのではないでしょうか?

これは、例えば、「仕事の場面で、単に数値目標を掲げるだけ」ではなく、『その仕事の意義や価値について本人が納得するよう働きかける』(…『関係者の意欲や感情にも配慮して、協働を進める』など)といったコミュニケーションが重要であるという考え方です。

こうしたコミュニケーションを図りながら、物事に意義を感じたり、関心を持ったりして、粘り強く取り組む(…『非認知能力』を発揮する)過程では、『仮説を立てては検証する』といった形で試行錯誤を繰り返します。 この試行錯誤の途中では、目的・目標を達成するにはどうすればよいのか?について深く考えたり、工夫を凝らしたり、創造性を発揮したり(…『認知能力』を発揮)します。 そして、こうした活動(単独行動、あるいは、仲間との協働)を通して、充実感や達成感、自己効力感などを得ることによって、「次の課題に挑戦しよう!」『非認知能力』が強化されるといった好循環が生じるのです。

さらに、『非認知能力』の発揮という話は、『意味づけ』が重要であるといった切り口からD)の『情報のパーソナライズ(個人化)・血肉化』という内容に、そして『粘り強い対話』が重要であるといった切り口からD)の『実践知を組織に浸透させる』という内容に深く関係してきます。

2015年7月15日のFacebookページ記事:『誤解されたくない』と『グローバル人財』&『イノベーション』の中では、

「他者に『誤解されたくない』と、一方的にコミュニケーションを断絶する」のは、もしかすると....

『自分のことを、自分が思っているのと同じように解釈して欲しい(他の解釈は受け入れられません)』ということ

『自己承認欲求が強い段階』(相手との間で生み出す価値などではなく、自分のことで頭が一杯にならざるを得ない、自信がなくて不安な状態;『意識の向け先が自分』の状態)にあるということ

『粘り強い議論』を通して『相互理解』を図ろうという姿勢を放棄した状態(一度で完璧にしなければいけないと思い込み、間違ってしまって自己評価がさらに低下するのを避けたいという状態)にあるということ

なのではないでしょうか?

といった考え方も紹介していました。

『冷静な状況分析』に基づく『自己防衛』はとても大切ですが、『建設的な意図に基づく質問や指摘』を『非難や個人攻撃』だと解釈して、『衝動的な反応』としての『自己防衛』策を採ってしまうと、『Win-Winの解決策』や『成長の機会』を自ら手放してしまうことになってしまいかねません。 あなたの身の回りでは、『粘り強い対話』を行っておられるでしょうか?

他にも、C)およびD)の内容に絡むものとして、2016年1月の『教養醸成の会』の私の学習レポートでは、下記のような記述も引用しておりました。

  • 脳死論議の長い過程は、合意が容易には成り立たない時代にすでに日本社会が入っていたこととつながる。価値観の多様化、世代間の断絶、ライフスタイルの変化、高度学歴社会の出現、日本的システムのほころびなど、戦後の日本社会の手法であった合意論が有効性をもたなかったのは、合意は暗黙の時間的経過の内に次第に醸し出されるという、それこそ暗黙の合意自体が有効性を持たない社会へと変わりかけていたからであった
  • 人が習慣的に自明の理として受け入れている伝統的教説を、受動的に受け入れるのではなく、各自の経験をもとにその意味を考え、自らの意見を手にする。そのことは、人がその個性を発揮し、異なった多様な意見が交わされる自由で寛容な社会が実現する一経路である――私はミルの言葉をこう解する。[p.418]

[ 出典:清水正之(著)『日本思想全史』]

グローバル・ビジネスに限らず、日本国内であっても、『価値観多様社会』の様相を強くしてきている今、『非認知能力を土台とした認知能力の発揮』という形で、私たちには『社会性の向上』が求められているのではないでしょうか?

あなたは、「機械と競合する『認知能力』だけでなく、『非認知能力』を積極的に伸ばそう!」という方向性について、どういったことを感じられ、どんなことを考えられますか?

さて、今回は、『キャリア・デザインに役立つ、個人のスキル獲得』に関心をお持ちの方向けに、『今、自分は何に注力することが望ましい状況を実現するのに有効そうか?』というテーマについて考えていく際の参考になればと、弊社がどんな『考えの進め方』をしたのか、そのプロセスをご紹介しました。 また、弊社なりの考えを進める上で登場した『非認知能力』についても参考になればと、併せてご紹介しました。

今回の記事をお読みになって、あなたはどんなことを感じたり考えたりされたでしょうか? 周囲の方々とお話になってみてくださいね。 それでは、次回のニューズレターでまたお会いしましょう♪

Send to Kindle

follow us in feedly