読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

人財と組織の育成を支援する「合同会社5W1H」のニューズレター

「納得できるように、物事を主体的に変えていく力」を持った人・組織こそが、「意義深い人生を送る能力」を持った人(から成る組織)であり、「贅沢さとは異なる豊かさを享受し、QOL(人生の質)向上を実現する能力」を持った人・組織である

『戦略→組織? 組織→戦略?』、経営陣と人財部門の責務とは?(第182号)

follow us in feedly
Send to Kindle
 こんにちは、合同会社5W1Hの高野潤一郎です。

前号では、「なぜ『戦略的人財マネジメント』への関心が高まっているのか? 経営陣が『人財部門の戦略』に意識を向ける理由とは?」といった内容をお届けしていました。

そして、終わりの方では、「従来『管理的業務』が主だった人財部門にも、『戦略的役割』(個別事業にとどまらず、企業自体に競争優位性を持たせる役目)を果たすことで、『企業の成長や持続的な繁栄に貢献すること』が求められるようになってきている」と書いていました。

これは人財部門の従来の業務内容を否定しているのではなく、「もちろん『管理』は大切だけれども、それだけでは主に『守り』でしかないので、今後は、『攻め』に相当する『戦略』(の立案・実行)に携わっていくこと(戦略的人財マネジメント)が、人財や組織を扱う部門に求められているのだ」という主張だとご理解いただければ幸いです。

この流れを受けて、今回は、「自社にとって適切な戦略とは?」「戦略と組織の関係とは?」「人財は育てる?育てない?」といった内容について、弊社の基本的な考え方を紹介していこうと思います。

 

『正解』があるなら、『みんなの戦略は同じ』はずだが…

他社の「ベスト・プラクティス」から「戦略」を学ぼうとする企業も多いと思います。 確かに、「他社ならではの特殊事情が含まれている」という部分を差し引いたとしても、「ベスト・プラクティス」から学べるところは多いと思います。

しかし、それらは、「過去のビジネス環境において、その時点から始めたある取り組みが、最近になって結実した事例」であって、「今から、自社がそのままマネして同じ成果が得られる保証はないし、逆効果になる場合もある」ということに注意する必要があります。

企業研修の導入を検討する場合に、「自社の状況や課題を見極めることが大切」であって、「流行を追ってばかりいても、望ましい成果が得られない」のと同じく、「戦略」を検討する場合にも、「有名企業や同業他社と同じこと」を単にマネしていても仕方ありません。

「自社は、現在、高い収益が見込める産業に進出しているのか?」「寡占状態を生み出すための手が打てるか?」といった『製品やサービスの市場構造に関する視点』から戦略を検討することが有効なステージの企業もあれば、「自社の持続的な競争優位性を実現するには、どういった人財を獲得・育成し、どういった技術力やブランド力を高めていくことが大切なのか?」といった『他社が模倣困難な、独自の組織能力に関する視点』から戦略を検討することが有効なステージの企業があるなど、市場や自社の状況に応じて「適切な戦略」は異なりますし、変わっていきます

第43回の『教養醸成の会』テキストの、アン・マクズラック著『細菌が世界を支配する』には、「順調に機能している生態系は、静止することなく、遷移と呼ばれるプロセスを経て常に進化する」、「進化とは、種の生き残りに有利な、ほんのわずかな個々の適応によって、個体群全体にある変化が生じることだ」といった表現もありましたが、やはり、経営戦略や事業戦略を検討する際にも、「適応や進化といったダイナミクスの視点」に配慮する必要があるのではないでしょうか?

 

「戦略 ⇄ 組織」と方向転換できる「懐の広さ」を持てていますか?

続けて「戦略と組織(特定の考え方に賛同する人財の集合体)」という切り口から見ていきましょう。

「戦略と組織」に関しては、大きく分けると、『組織は戦略に従う』と『戦略は組織に従う』という2つの有名な考え方があります。 

『組織は戦略に従う』という表現で知られる、経営史研究者のアルフレッド・D・チャンドラーJr.さんは、「目的や戦略、中長期の業績目標などを定めてから、それらを達成するために必要な人財などの経営資源を計画的に配備することが重要である」という考え方を提唱され、

『戦略は組織に従う』という表現で知られる、戦略経営論創始者のイゴール・アンゾフさんは、「実現可能な戦略は、組織能力に規定される。他社との差別化を図るには、組織の特性を活かした戦略立案が重要である」という考え方を提唱されました。

これらについては、「真逆の対立する考え方である。どちらか一方だけが正しいはずだ。」と捉えるのではなく、市場や自社の状況に応じて、「戦略→組織」の取り組みに軸足を置く場合と「組織→戦略」の取り組みに軸足を置く場合を「柔軟に切り替えていく」ことが大切だと、弊社では考えています。

●プロ棋士の将棋は、攻めとか受けとか色わけできるほど単純ではない

十五世名人・永世十段・永世王位・永世棋聖・永世王将といった5つの永世称号を獲得された将棋棋士大山康晴さんは、『勝負のこころ』という著書の中で、「私の場合、受けといっても、単なる守勢を意味するものではない。相手に踏みこまれてから、やむなく受けに廻るというのは、ほんとうの受けではない。それは、後退と同じことで、正しい意味での防御という役を果たしていない。相手が踏みこんできたとき、いつでも反撃できる態勢を整えておく。十分な準備のうえに立って、あくまでも攻めを前提として守りを固めるのが、ほんとうの『受け』である。と述べておられます。

ただし大まかな傾向としては、コンビニエンス・ストアがドリップ・コーヒー(カフェ市場)やドーナツ(おやつ時間市場)、スムージー(健康・美容市場)の取り扱いを始めた例などで見られるように、産業間の境界線は曖昧となって、伝統的な産業構造を適用して戦略を考えること(「戦略→組織」のアプローチ)は難しくなってきており、逆に、「組織→戦略」のアプローチ(図表1の右側で示した「創発的なアプローチ」)に意識を向ける企業が増えてきていると、弊社では捉えています。

4つの戦略(「創発的・機械論的」×「ヴィジョン・価値観」版)

図表1:4つの戦略(「創発的・機械論的」×「ヴィジョン・価値観」版)

一方、最近盛んな「戦略的人財マネジメント」の話では、「戦略→組織」を前提とした、「戦略が実現できる人財の獲得・育成」といった表現が非常に多く、「インベンション(発明)」や「イノベーション(創新普及)」の促進に重要な、「組織→戦略」を前提とする表現に出会う機会が少ないように感じています。

環境変化に応じて『攻めつつ守り、守りつつ攻める』という『懐の深い、複眼的な戦略活動』の実現という切り口があることも踏まえ、あなたは「戦略」についてどのように考え、所属組織でどういった取り組みをしていくのが良さそうでしょうか?

 

改めて、人財部門として揺らいではいけない『戦略』とは?

企業にとっての「戦略」と言っても、『全社戦略』事業領域の決定、それぞれの事業への資源配分など)、事業戦略』(既存事業の拡大、新規事業への取り組みなど)、『機能戦略』(組織・人財戦略、研究開発戦略、マーケティング戦略など)をはじめ、さまざまな切り口のものがあります。 そこで、ここでは、人財育成と組織開発に関係の深い「戦略」として「人財は育てるのが良いのか?育てなくても良いのか?」を検討する際のヒントになりそうな話をご紹介しようと思います。

『エッセンシャル・キャンベル生物学』(Campbell Essential Biology 4th Edition), Eric J. Simonほか著によると、生態学では「生存曲線」(survivorship curve)という概念があるそうです(図表2)。 ヒトや多くの大型哺乳類のように「少数の子を産んで、子の世話をよくして、成熟するまでの生存率を増加させる」という生存戦略を採るものは「Ⅰ型」と呼び、カキをはじめ多くの無脊椎動物や一部の魚のように、「多数の子を産み、ほとんどあるいはまったく子の世話をしない」ものは「Ⅲ型」と呼び、一部の無脊椎動物、トカゲやげっ歯類などは、「生存率が生涯を通して一定」な「Ⅱ型」と呼ばれていると紹介されています。

理想化した生存曲線の型

図表2:理想化した生存曲線の型
[出典『エッセンシャル・キャンベル生物学』(Campbell Essential Biology 4th Edition), Eric J. Simonほか著を基に合同会社5W1Hにて作成]

また、小さな体で短い寿命の動物の多くは、(栄養素などの制約が少なく、競争が少ないといった)生存に適した環境の下であれば、「指数関数型成長」を遂げて、生育地を素早く占有します(図表3)。 一方、ほとんどの環境では個体群成長に必要な資源に制限があるため、個体の成長率は環境収容力に近づくにつれて減少します(「ロジスティック型成長」)。資源をめぐる競争は、環境収容力に近づいた環境で激しいため、子供の生存より自分の生存にエネルギーを投資する生物が生き残ります

指数関数型成長とロジスティック型成長の比較

図表3:指数関数型成長とロジスティック型成長の比較
[出典『エッセンシャル・キャンベル生物学』(Campbell Essential Biology 4th Edition), Eric J. Simonほか著を基に合同会社5W1Hにて作成]

ここで、「組織=個体群、個人=個体」として、企業の「人財・組織戦略」について考えてみましょう。

図表2の生存曲線については、例えば、次のようなことが言えそうです。 

「Ⅲ型」の生存戦略は、「個人が自力で生きる」ことを前提とし、「個人を大切にすることよりも、組織が生き延びることを重視する」という戦略です。そのため、「生命力あふれる少数の個人だけが長生きする」という結果が生じやすくなります。 

一方、「Ⅰ型」の生存戦略は、「関係者が個人を育成するために充分な働きかけを行う」ことを前提とし、「放置しておくだけで、自発的に一定確率の優秀な人財が生まれるのを待つのではなく、長期間に渡り、環境を整え、愛情を注ぎ、ストレッチを促し、組織の方向性と個人の価値観の整合性を図るなどして、個人を育成することによって、優秀な人財が発生する確率を高める」という戦略です。結果として、「組織や仲間への愛着が生じる」といったことが起こりやすくなります。

図表3の成長曲線比較については、例えば、次のようなことが言えるかもしれません。 
イノベーションを興し、競争のない未開拓市場を切り開いていく戦略(ブルー・オーシャン戦略; Blue Ocean Strategy)が採れる間は、「指数関数型成長」を遂げるのかもしれませんが、複数イノベーションを次々と興していけるかどうかはわかりません。 また、自社が競争の激しい既存市場(レッド・オーシャン; Red Ocean)にあり、環境収容力の限界に近ければ、後継者や若手を育成するよりも、短期的視野に立った生き残りに必死になりがちかもしれません。

もちろん、図表2, 3は単純化したモデルでしかありませんので、今後の組織や個人の方向性を検討する際の出発点くらいに捉えればよいと思いますが、経営者・経営陣は、(例えば、人財育成にしっかり取り組む会社なのか、それとも、短期間かもしれないけれど即戦力に対して高額の報酬を提供する会社なのかなど)自分たちの方針を定め、全社で意識共有を図っておくことが大切ではないでしょうか? 「柔軟にアプローチを変えるべきルール」も数多くあると思いますが、「人財をしっかり育成するかしないかといった方針は、人財部門の担当者の異動などによってコロコロ変わるようではマズイ性質の基本方針」だと、弊社では考えています。

前号では、「『人財獲得競争』が激化してきている」という内容について、5つの観点から解説していました。 既に『優秀な人財が働きたいと思う企業』として認知されているのであれば、「(個人には、主体的に能力開発に取り組むかどうかを選ぶ自由があると考え)組織として人財を育てたりはしない」という選択肢も成り立つのかもしれません。 しかし、総務省「平成24年経済センサス」によれば、産業の種類によらず、日本の企業のおおよそ99%は中小企業であり、その大多数は、『優秀な人財が働きたいと思う企業』として広く認知されていないのかもしれません。 このような視点に立って考えると、ほとんどの企業は、「人財を育てる道」を選ぶのではないでしょうか?

『各部門』の収益向上に日々邁進している人々は、『目先の目標を達成する』ために『部門最適』の視点でモノを考えがちになることは不思議ではありません。 しかし、だからこそ、『経営陣と人財・組織部門に属する人々』は、『全社戦略』『事業戦略』『機能戦略』などを統合した視点から捉え、『現有能力で可能なことを実施する』だけではなく、『組織能力を伸ばし、市場競争力を高めていくために必要・有効・妥当と思える取り組みを立案し、実施する』ことが責務であると、弊社では考えています。

人財育成と組織開発に関係の深い「戦略」について、あなたの所属組織では、今後どういった方針を持ち、具体的にどんな活動をしていくのが良さそうでしょうか?

さて今回は、「もちろん『管理』は大切だけれども、それだけでは主に『守り』でしかないので、今後は、『攻め』に相当する『戦略』(の立案・実行)に携わっていくこと(戦略的人財マネジメント)が、人財や組織を扱う部門に求められているのだ」という前号の内容を受け、

「市場や自社の状況に応じて『適切な戦略』は異なるし、変わっていく」、「産業間の境界線は曖昧となって、伝統的な産業構造を適用して戦略を考えること(「戦略→組織」のアプローチ)は難しくなってきており、逆に、「組織→戦略」のアプローチ(図表1の右側で示した「創発的なアプローチ」)に意識を向ける企業が増えている」、「環境変化に応じて『攻めつつ守り、守りつつ攻める』という『懐の深い、複眼的な戦略活動』の実現を心掛ける」、「『経営陣と人財・組織部門に属する人々』は、『全社戦略』『事業戦略』『機能戦略』などを統合した視点から捉え、『現有能力で可能なことを実施する』だけではなく、『組織能力を伸ばし、市場競争力を高めていくために必要・有効・妥当と思える取り組みを実施する』ことが責務である」といった弊社の考え方を紹介してまいりました。

今回の記事をお読みになって、あなたはどんなことを感じたり考えたりされたでしょうか? 周囲の方々とお話になってみてくださいね。 それでは、次回のニューズレターでまたお会いしましょう♪

Send to Kindle

follow us in feedly