人財と組織の育成を支援する「合同会社5W1H」のニューズレター

「納得できるように、物事を主体的に変えていく力」を持った人・組織こそが、「意義深い人生を送る能力」を持った人(から成る組織)であり、「贅沢さとは異なる豊かさを享受し、QOL(人生の質)向上を実現する能力」を持った人・組織である

フレームをガタガタ揺さぶり、泥臭く「協創」を促す?(第172号)

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こんにちは、合同会社5W1Hの高野潤一郎です。 

ある人から、「高野さんは、人財育成コンサルタントとしても、エグゼクティブ・コーチとしても、研修講師としても、『協創』を大切にされているんですね」といった言葉を頂戴しました。 そのときに、「『協創』って、ニューズレターを購読してくださっているみなさんは、具体的にイメージできているだろうか?」という疑問が浮かびました。 そこで今回は、2つの切り口から、弊社で考えている「協創」についてご紹介したいと思います。

 

よくある「大量の付箋を用いた、ワイガヤ研修」

まず、先日の「変化促進研究会」(現在、3月からの期と5月からの期の参加者を募集中!)で取り上げていた話の一部を、かいつまんでシェアいたします。

イノベーション、デザイン思考、創造性などといったキーワードが盛り込まれた研修の事例

エネルギー関連企業の経営者、多国籍にファッション・ブランドを展開する企業のブランド・ディレクター、世界最大の家庭用電化製品ブランドの技術開発部門トップ、投資ブローカー、医師、広告会社の経営幹部など、それぞれの分野の今後の方向性を定めるリーダー50名が一堂に会し、「世界の医療・健康管理問題」をテーマに、2日間に渡って、ブレインストーミングの4原則(※1)を採用したワークショップ形式の研修を実施するという状況をイメージしてみてください。(…研修への参加に慣れている方であれば、きっと「よくある光景」だと感じていただけますよね 。)

研修主催者・企画者は、この研修によって、何らかの素晴らしい結果が得られ、その結果を持ち帰った参加者たちが、研修結果を踏まえた活動を起こすことを期待しています。 また、ファシリテーター役の講師には、2日間に渡る演習を円滑に実施し、何らかの「まとめ」を提示することが期待されています。

研修が始まると、付箋(繰り返し貼り直しができる粘着メモ用紙)に書かれたさまざまな「世界の医療・健康管理問題」の解決に役立つかもしれない数百のアイディアが、ポスターや壁に貼られるなど、所定のプロセス(※2)が進められていきます。 チームごとに、得られた意見が「明日の医療・健康管理」といったタイトルの下に整理され、参加者は「各自が最良のアイディアだと思うものはどれか?」について投票すること、「寄せ集めの大量の付箋の中から、全体像やパターンを導き出す」ことが求められます。

この段階に至って、たくさんのアイディアを出すことができて満足感・充実感を味わっていた参加者たちは、突如としてフラストレーションにさいなまれます。 それは、付箋に書かれた内容が、具体的な状況設定が抜けていて抽象的過ぎたり、方向性がバラバラだったりして、さまざまな分野の専門家の意見を統合する見解を見い出すのが非常に困難なためです。

研修初日も夜8時となり、参加者も疲れを感じている状態で、ファシリテーターは何とか一段落の区切りをつけようと参加者に働きかけます。こういった状況下で、ひとりの参加者が、ちょっと良さそうなアイディアを出すと、参加者たちは早く解散できるように、その人が出したアイディアに賛成の意を表します

2日目も「所定のプロセス」が続けられ、午後には、創造的なワークショップ型研修の結果を見聞きしようと、報道関係者など参加者以外の関係者が集まってくる場合もあります。 研修会場は、山のような付箋をはじめ、議論の最中に描かれたスケッチや楽器、ジャグリングボールや子供のおもちゃなど、発想の刺激に用いられた道具が散乱しています。 そして、研修の終わりには、何とかひねり出した切り口からバラバラの意見をまとめて見せる「最終プレゼンテーション」がチームごとに行われます。

2日間の研修終了後、参加者も、ファシリテーターも、研修企画者も、「所定のプロセス」や得られたアイディアが素晴らしいものだったと同意しますが、ほとんどの場合、最終プレゼンテーションで提示されたアイディアが現実のものとなることはありませんし、「世界の医療・健康管理問題」に変化が起きることもありません

Q. 彼らの望む状態、達成したい目的は何だったのでしょう? 目的達成/問題解決のために、上記のような研修という手段を、上記のような形で用いることは適切だったのでしょうか? あなたなら、どのように考えますか?

※1 ブレインストーミング
米国の広告代理店BBDO社の副社長を務めていたAlex F. Osbornさんが広めたとされる「ブレインストーミング」についてご存知の方、多いのではないでしょうか? これは、「①出されたアイディアを批判したり、評価したりしない、②荒削りのアイディアや奇抜なアイディアを歓迎する、③量(アイディアの数)を重視する、④出されたアイディアを統合したり、改善したりする」という4つの原則があり、「集団で大量のアイディアを出し合うことによって、新たなアイディアの誘発を期待する会議方式」のことを指しています。

先日の「変化促進研究会」(現在、3月からの期と5月からの期の参加者を募集中!)では、ブレインストーミングについて、Osbornさん自身が明確に、「新製品の名称を決めるなど、極めて具体的な目的の達成にだけ役立つように開発した」(…汎用的な創造性発揮プロセスではない。よくある研修の例として取り上げた上述のような場面で、抽象度の高いテーマを取り上げるのが適切でない場合があることに留意が必要)と述べている点についても取り上げていました。

※2 所定のプロセス
ブレインストーミングから派生した変異型と言われることのある、ラテラル・シンキング(水平思考)、デザイン思考、TRIZ、電子ブレインストーミングなどの前提となっているのは、「正しいプロセス(方法、手順など)を踏んでいれば、創造性は発現される」という考え方であると言われることがあります。

 

何がマズイのか?

前段のような「イノベーション、デザイン思考、創造性などといったキーワードが盛り込まれた研修の例」に関する、先日の「変化促進研究会」での主要な議論は、現実に望ましい変化が起きることを期待するのが難しい研修で採用されている、下記のような「前提」についての内容でした。

a) 研修は、研修企画者が提案・設定した問題について、参加者が解決策を考える場である。(…参加者に「問題の再設定、課題の設定を行う余地」は与えられていない。)

b) 「所定のプロセス(※2)」を踏めば、目的達成/問題解決に有効な新しいアイディアは、効率よく迅速に創出できる。(⇔例えば科学技術史には、「何かのきっかけで得た『あいまいな直感』について様々な角度から検討を繰り返し、何年もの間、同僚と議論や実験を繰り返して、ようやく数式を用いて理論を表現できたり、試作品を製作できたりした例」が数多く見られる。このように、まったく新しい切り口のアイディアの誕生には、しばしば、長い熟考期間や、無関係に思える事柄に取り組む期間などが求められる。)

c) 「所定のプロセス」は、単純で機械的に進めることができるため、講師に高いファシリテーション能力は求められない。(…「慎重に考えずに結論に飛びつく参加者、それに同意する参加者」や「時間制約にストレスを感じる参加者」、「参加者の間に現実的な利害関係がないため、議論を尽くさずに妥協案に同意する傾向」などへの対応を軽視する。)
など

もちろん、これらの前提の他にも、「研修」というものをどんな手段/道具だと見なしているか?(※3)などについての確認が重要だという話がありました。…研修をどういったものだと見なすかによって、そのデザイン(目的、構成員、方法、時間、回数、期間など)がまったく変わってきます。

※3 「研修」とは何か?を考える参考材料
例えば、「木を切る」のに必要なのはノコギリやチェーンソーであって、カナヅチではありません。 同様に、どういった目的の達成に「研修」という手段が有効なのか考えることが大切です。 経営戦略/事業戦略/人財育成・組織開発戦略を実行する上で、「研修」が有効そうなのかどうか? どういった研修なら有効そうなのか? 意識変容を狙うのか、行動変容を狙うのか、解決策の案出を狙うのか? …etc.

ニューズレター第104号:「戦国時代の茶会」と「福利厚生費などが不要の人財」では、下記のような内容にも触れていました。

(ニューズレター第102号では、「型」と「形」の話も書いていましたが…)ヒトの脳にある「型」を定着させようとすると、その信号処理のパターンを習慣化させることが必要となります。(この場合には、脳内の神経細胞の再組織化にはタンパク質の合成を支えるために必要な遺伝子の発現などを考慮すると、最低2週間くらいに渡って継続的な取り組みが必要となります。)このように、筋肉トレーニングでも記憶でも、神経や筋肉細胞などが増えたり強化されたりするには、学習の臨界点(閾値)を超える必要がありますし、それに要する時間を無視することはできません。(…もちろん、自分の現在の能力や信念などを変えないまま、目先の短期的な行動だけを変えること・対症療法ならすぐにできるかもしれませんが、ここでは、中長期に渡る本質的な変化や成長を望む場合の話をしています。)

このように、「変化促進研究会」では、研修内容(演習の種類や実施方法)についてあれこれ議論するよりも、もっと手前の「経営戦略/事業戦略/人財育成・組織開発戦略と研修の関係」と、それを踏まえた「研修デザイン」などに関する議論がより重要なのではないか?という話になっていました。

あなたは、a) ~ c) について、また、「望ましい成果が得られない研修」について、どういったことをお考えになるでしょうか?

 

「フレームをガタガタ揺さぶる」関わり方

イノベーション、デザイン思考、創造性などといったキーワードが盛り込まれた研修の場合には、行動変容などではなく、新戦略の策定や解決策の探求などが求められることが多くなります。

つまり、「過去の類似状況で奏功した方法を迅速に適用できるようにする」研修ではなく、(目的達成や問題解決に先立ち)「混沌とした状況を、斬新な切り口から統合して見せる」ことを目指す研修や、「未知・未踏の領域で、他者と共に、試行錯誤を伴いながら、みんなが納得できる新たな課題を設定する」研修といったものが求められるというわけです。

スポーツ用品業界 どうやってスポーツ用品を売るか?→ヨガはスポーツか?スポーツとは何か?
Coloplast社 どうやったら、もっとオストミー(人工肛門人工膀胱)ケア製品が売れるのか?→オストミー・ケア製品を実際に使用する体験とは、どんなものなのか?
LEGO 子供はどんなおもちゃを望んでいるのか?→あそこで子供たちがやっていることは何だろう? この子がここでやっていることと同じなのだろうか? 今の子供たちにとっての、遊びの役割は何だろう?

図表:『課題の(再)設定』を行うプロセスで生じた『問いの変更』事例
[ 出典:Christian Madsbjerg著「The Moment of Clarity: Using the Human Sciences to Solve Your Toughest Business Problems」を基に、変化促進研究会の議論を踏まえ、合同会社5W1Hにて作成 ]

例えば、ほとんどのコンサルタントは、「自分たちは、クライアントに正しい答えを提供するために雇われたのだ」と考えています。 しかし、こういった研修が求められるような状況とは、「誰も正解を持っていないので、誰を頼ってもすぐに解決策を授けてくれるわけではない」という状況です。 したがって、こういった研修の講師を務める人物としてふさわしいのは、コンサルタント的な関わり方しかできない人ではなく、「上記のような状況であっても、協創・協働していきたいと思ってもらえる『何か』を備えた人」だと、弊社では認識しています。

こういった研修の講師に求められるのは、「手順どおりに(機械的に)、円滑に話や段取りを進めていくこと」ではありません。 弊社では、こういった研修の講師に求められる資質のひとつとして、「研修参加者の既存のフレーム(モノの見方・捉え方)をガタガタ揺さぶるような質問を投げかける能力」が重要ではないかと考えています。 事前に想定していた「落とし所」に結論を持っていこうとするのではなく、例えば、下記のような質問を投げかけ、参加者どうしの相互作用を促進し、議論を発散させたり収束させたりしながら、研修の場で、新しい解を紡ぎ出すように参加者に働きかけていくのが、こういった研修の講師役に求められることなのではないでしょうか?

  • さまざまな問題症状が起きている状況をどのように把握するのか?
    …時々刻々変化していき、重複もあるようなビッグ・データから、どんなパターンを認識し、全体像をどう捉えるのか? どんな切り口(フレーム)を選ぶのか?
  • 解決したい問題は何なのか?
    …どんな物事に重要な価値/意味があると見なすのか?
  • どんな質問を選んで答えようとするのが、誰にとってどう有益なのか?
    …その仮説はどういった経緯で生じたのか?

など

弊社では、上記のように「混沌とした状況を、斬新な切り口から統合して見せる」ことや、「未知・未踏の領域で、他者と共に、試行錯誤を伴いながら、みんなが納得できる新たな課題を設定する」ことを支援する関わり方が、こういった研修における講師を務める人物の、「協創」に向かう貢献の仕方であると考えています。

 

「泥臭い取り組み」を経て、価格競争の先へ

競合他社と同様、既存の仮説に基づいて論理的に考えていれば、まったく同じ解に到達します。 論理的思考から導かれる解というのは、普遍的な解であり、非常に有益なのですが、その解決策を用いて勝負できるのは、結局、価格競争に耐えうる資本力を持った企業だけということになりかねません。 「没個性的・画一的な解決策」から離れ、「新たな仮説・判断基準・可能性を探求する」道を選ぶのであれば、前段で紹介したような「協創」が極めて重要になってきます。

しかし、「私たちは、どんな問題を解くことを選ぶのか?」という課題設定が済めば、それでイノベーションが実現するというわけではありません。 併せて、「経営戦略/事業戦略/人財育成・組織開発戦略」を「実行」する部分での「泥臭い取り組み」が大切です。

以前のニューズレター:「スマートじゃないコンサルタント」が大事!?では、次のようなことを書いていました。

相談事をお持ちの経営者や組織の中には、「分析・診断に基づく提案や選択肢の提示」を行ってくれる「スマートさ」(賢さ;機敏さ;洗練されている感じなど)にばかり頼るコンサルタントよりも、

むしろ、例えば、プライドが邪魔して自説を曲げない人や、摩擦や葛藤を恐れて本音を語らない人など、さまざまな人のさまざまな思いや感情について理解した上で、途中で放り出さず「社員の意識変革や行動変革」支援にまで関わるという「泥臭さ」(派手さはないけれど、真摯に納得解を探求し、戦略を実行しようとする姿勢;地道だけれど着実な進展が期待できる信頼感など)を備えたコンサルタントと協働したいという方、結構いらっしゃるのではないでしょうか?

こういった考えを元にして、「戦略を実行する上で鍵となる、人財と組織の領域で、粘り強く経営者や組織を支援するビジネス・パートナー」であろうと努めているのが、弊社の人財育成・組織開発コンサルタントです。

すなわち、「経営幹部やライン・マネジャー向けのコーチング」「組織の体質改善に役立つ、人財育成研修」などを実施し、種々の価値観や感情の交錯する「現場」の事情・対応にも通じているため、戦略の実行支援でその本領発揮が期待できるというのが、弊社の人財育成・組織開発コンサルタントの特長となっています。

また、「組織の問題」=「コミュニケーション不全」!?  というニューズレターでは、「組織のヴィジョン・ミッション・価値観・ウェイ・戦略・事業計画の実現を妨げているさまざまな事情・障害・心理抵抗の背景」として、次の3点を挙げていました。

A) 目的・目標達成にとって、不適切な前提(暗黙の条件、業界の常識など)を採用していること…確認不足、目的・目標ごとの前提の調整不足(不適切な問題設定)

B) “目的・目標達成に有用な” コミュニケーションの「量」が不足していること…「話の量自体は多いけれど、組織の目標達成に関係の深い話の占める割合が少ない」「関係者間で認識のズレがある」など

C) “目的・目標達成に有用な” コミュニケーションの「質」が不足していること…「『相手の人格』と『その人の意見』を分けて考えるのに慣れておらず、率直に、本音で語らない」「価値ある少数意見を吟味せず、安易に多数決で物事を決める」など

上記のようなポイントに留意しつつ、「泥臭く、組織コミュニケーションに関わっていく」というのが、弊社の考えるもうひとつの「協創」の形です。

リーダーやマネジャーのみならず、関係者全員が良質なコミュニケーションを通して様々な事柄を学び合うことが求められているのが、「経営戦略/事業戦略/人財育成・組織開発戦略を実行するプロセス」であり、その「泥臭い、組織コミュニケーション」について体系立てて学ぶ機会として提供しているのが、「課題の適切な設定」を重視する下記のプログラムとなっています。

「課題の再設定」「システム思考」「ダブル・ループ学習」を重視し、「コーチングに適した心理学」「フレームワーク質問力®」を基盤としたプログラムです。 生涯役立つマインドセットとスキルを、向上心旺盛な学習仲間と一緒に身につけましょう!

参加を検討されている方、「参加者の声」を見てみたい方は、こちらをご覧ください♪

3月14日(土)~15日(日)
3月25日(水)~26日(木)
4月16日(木)~17日(金) 開催
フレームワーク質問力®

こちらのセミナーの内容は、合同会社5W1H流「コーチング学習プログラム」の第1~2日目の内容と同じとなっています。3月14日(土)~15日(日)の回に参加されることで、内容や実用性、講師との相性などを確認され、その後、第3日目へと編入していただくことも可能です。

 


さて今回は、「『協創』って、ニューズレターを購読してくださっているみなさんは、具体的にイメージできているだろうか?」という疑問から始め、「フレームをガタガタ揺さぶり、泥臭く『協創』を促す」という弊社流のアプローチについて、ご紹介してきました。 あなたは、どんなことを感じたり考えたりされたでしょうか? 是非、仕事で関係していらっしゃるみなさんと話し合ってみてくださいね!

以上、今回の記事も、あなたの「QOLの向上」にとって、何か少しでもお役に立てれば幸いです。それでは、次回のニューズレターでまたお会いしましょう♪

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