人財と組織の育成を支援する「合同会社5W1H」のニューズレター

「納得できるように、物事を主体的に変えていく力」を持った人・組織こそが、「意義深い人生を送る能力」を持った人(から成る組織)であり、「贅沢さとは異なる豊かさを享受し、QOL(人生の質)向上を実現する能力」を持った人・組織である

経験学習:「体験」を「経験」に変える「概念化」(第120号)

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こんにちは、合同会社5W1Hの高野潤一郎です。

今回は、「視座を高め、視野を広げ、視点を適切に選ぶ力を育みたい人のための『教養醸成の会』(CGG)」について別の角度から補足しておこうと思います。

※第1回目CGG開催後、学習仲間に提出した私の「学習レポート」を公開しています。ご興味をお持ちの方は、Google+ページへの投稿記事、「『不動智神妙録』☓『兵法家伝書』☓『礼記』で 『福翁自伝』を解す」をご覧ください。

 

能力開発と体験/経験学習

「研修の効果を上げるフォローアップ・コーチング」のページでは、次の表を紹介しています。

「3タイプの専門的能力開発」に関する比較表

図表1: 「3タイプの専門的能力開発」に関する比較表
(出典:70/20/10 formula, Learning and Development model from the Princeton University Learning Process; "Coaching in Organizations" Madeleine Homan, Linda J. Miller)

この表から読み取っていただきたいことの1つは、「専門的能力の開発という切り口」からすると、コンテンツを伝えることに主眼が置かれた「知識付与型の学習」の貢献度が1割程度とかなり低いということです。(…「eラーニング」で能力開発を行うには、それ単体を用いて安心するのではなく、さまざまな工夫が必要となりますね。)

こういった背景を基に、人財育成の場面では、デイビッド・コルブ(David A. Kolb)氏によって提唱された「経験学習モデル」(…「体験→省察→概念化(仮説の考案)→実践(仮説の検証)」という4段階の学習サイクルを繰り返すというモデル)などのアプローチを重視する傾向にあります。

では、専門的能力開発といった場面にも役立つ「経験学習」について、私たちは、どういった理解をしておくことが望ましいのでしょう?

 

「体験」と「経験」を区別する

上記の、「経験学習モデル」(…「体験→省察→概念化(仮説の考案)→実践(仮説の検証)」という表現で、私が「体験」と「経験」を区別して表記していたことにお氣づきでしょうか?

確かに、日常会話などでは、「体験」と「経験」を区別せず同じように用いることが多いと思いますし、普段はそれで構わないと私も思いますが、総合診断と問題の再設定を重視する合同会社5W1H流 「コーチング学習プログラム」や、「コーチング演習パートナーシップ」、2日間「コーチング漬け」体験などでは、「体験」と「経験」を区別して取り扱う場合があります。それは、次のような区別です。

体験:自分自身で実際に、見たり、聞いたり、触れたり、嗅いだり、味わったり、試したりする/したこと。「生々しい直接性」を伴う。[ コーチングなどに詳しい方向けの補足…「体験」は、主に、プライマリ・レベルの「五感情報描写」(現地)を指します。]

経験:体験そのものを指す場合に加え、「体験から得た知識や技術など」を指す場合がある。 体験と比較して、より「一般的で間接的」。[ コーチングなどに詳しい方向けの補足…「経験」は、主に、メタ・レベルの「解釈に基づく描写」(地図)を指します。]

[ 合同会社5W1Hによる定義 ]

こういった区別は、コーチングの場面だけでなく、第96号の図1「事実認識(主観的世界)の違い」のような状況(…同じ場にいたはずなのに、お互いに、まったく別のことを重視したり考えたりしている状況)について理解すること、ひいては、コンフリクト・マネジメントや交渉など、「明確なコミュニケーションが求められる場面」で大きな役割を果たします。

まず、ここまでが「経験学習」の「経験」部分についてのお話です。次は、「経験学習」の「学習」部分について見て行きましょう。

 

「個人」としての学習と「組織・コミュニティ・社会」としての学習

本稿の最初の方で、「専門的能力の開発という切り口」という表現を用いていました。専門的能力と言ったときに、ギネスブックに掲載されるような「特技」などをイメージされる方がいらっしゃるかもしれませんが、本稿では、「仕事」を進める上での専門的能力を指して、あれこれ書いているのだとご理解ください。後の話に関係してくるので、ここでは、弊社が考える「作業」と「仕事」の区別についてご紹介します。

作業:事前に、(誰かが)頭で考えた仕事のやり方や進め方(計画)に従って、たんたんと/順序良く、定型的に身体を働かせ、おおよそ投資した時間に比例する成果が得られるもの。(単純作業、肉体労働といった表現が用いられる場合もある。)

仕事状況(変化)に依存した意思決定・個性・創造性などに基づいて、身体や頭を柔軟にand/or緻密に働かせて取り組むもの。(生計を立てるために行うことを指す場合もある。物理学分野における定義は省略。)

[ 合同会社5W1Hによる定義 ]

…このように考えると、「作業では効率性、仕事では効果性が特に重視」されそうだと思えないでしょうか? 底上げ教育や製造業では、効率性という言葉を「生産性」や「能率」といった表現に変えて用い、これまで「無駄がないことは良いことだ」という考え方を浸透させるのに大きな役割を果たしてきました。では、効率性について一定の水準に達したように見える私たちは、今後、効果性についてどのような取り組みをしていくことが求められているのでしょうか?

さて、「専門的能力の開発という切り口」から見た、「経験学習」の「学習」部分についての話に戻りましょう。言い方を替えると、「仕事を通して、自分/自組織の競争力を高めたり、自分の人間としての成長を促進したり、自組織が行う活動の社会へのインパクト・貢献を増したりするには、どういった経験学習を心がけることが効果的か」という話です。

「個人」としての経験学習では、「体験→省察→概念化(仮説の考案)→実践(仮説の検証)」というサイクルを、主に自分1人で回していきます。多くの場合、個人としての経験学習では、対象への「興味や情熱」などが学習を進める原動力となります。もちろん、「数回体験したら、飽きて辞めた」というのを繰り返していては、自己の能力向上は望めません。学習目的に応じて、(複数のアングルからの)動画撮影・日記・図解を多用した振り返りノート・ベンチマーキング指標等に基づく評価なども活用し、後で「省察や概念化」が可能なように、「体験を記録」しておくこと、その記録を元に分析・省察を行うことが求められます。また、人によっては、こういった取り組みが容易に行えるように、自己規律(日課の設定、周囲への公言、定期開催の勉強会など半強制的な学習の場への参加など)を設けることも有効となるかもしれません。こうして、今まで自分だけでは氣づかなかった根本的な誤りを発見するための工夫(自分を観察してくれる人物、対話や思索のパートナーを得るなど)や、前回とのわずかな違い探しなどといった地道な取り組みにも楽しみを見い出す工夫を盛り込みつつ、学習サイクルを継続的に回していくことが求められます。

これらのポイントを踏まえると、「専門的能力の開発」を目的として、「個人」としての経験学習を進める際の注意点は、「自己満足に陥らないこと」なのではないでしょうか。対象に取り組むこと、次から次へと体験を積むこと自体(ただただ場数を踏むこと)が目的化し、省察を行わないために体系的や分析や理解を欠くと、効果的な学習は行えません(効率的ですらありません)第117号で「静的な知を増やしても、物知りになるだけで、賢くなれない」といった内容についても書いていましたが、やはり、「支離滅裂で、理想論ばかりを熱く語る、現実から乖離した多趣味の人」などで終わらないようにするには、「楽しみや喜びを感じられるような仕組み」を取り入れつつ「地に足の着いた、現実的な態度での学び」を重ね、「自分の経験・理解の範囲に閉じこもらず、積極的に他者の客観的な意見を求めて、軌道修正を図ること」が大切なように考えています。

※参考情報1
第102号では、「なぜだかわからず『たまたま』うまく機能する質問力」と「『洞察力』に富み『ヒット率の高い』質問を発することができるようになる質問力」といった切り口から、「『たまたま』を『高確率』に変えるため、『型』を『形』に変える」という内容についてお伝えしていました。また、第114号では、「あなたが、もし『3分以上前の記憶や身体感覚を失ってしまう体質』であったとしたら、どうでしょう?新たな事柄を習得することが、(少なくとも)極めて困難になりそうだと想像できないでしょうか?」と書いていました。

では、「組織・コミュニティ・社会」としての経験学習については、どういったことに意識を払っておくのが良いのでしょうか?(…日本で「コミュニティ」と言うと、「地域共同体」を連想される方も多いと思いますが、ここでは、「共通の専門的知識・技能や、特定の取り組みに対する深い関心を持ち、所属組織や各種属性にかかわらず、主体的に結びついた人々の集まり」を指しています。) 

「組織・コミュニティ・社会」としての経験学習を効果的なものにするには、「『組織・コミュニティ・社会』構成員である各『個人』の経験学習の成果を、いかに『組織・コミュニティ・社会』で共有・活用していくか」、すなわち、「状況・個人の技能レベル・主観などに基づいて得られた『体験知』を、どのようにして、より汎用性の高い『経験知』として共有し、相乗効果を上げることができるよう活用していくか」について、それぞれの「組織・コミュニティ・社会」で考えておくことが大切であると、私は考えています。すなわち、「組織・コミュニティ・社会」としての経験学習を効果的なものにするには、「個人」としての経験学習の話で注意点として挙げていた「自己満足に陥らない」ようにするための具体的方策と重なる部分が多いということですね。
では、「個人」としての経験学習と「組織・コミュニティ・社会」としての経験学習を効果的に行うに当たって、特に意識すべき違いはないのでしょうか?

 

「体験」を「経験」に変える「概念化」

私は、「個人」としての経験学習と「組織・コミュニティ・社会」としての経験学習を効果的に行うに当たっての違いの内、最も顕著な違いは、「閉じた体験知」と「開いた経験知」という切り口ではないかと考えています。つまり、「個人」としての経験学習に比べ、「組織・コミュニティ・社会」としての経験学習の方が、「状況・個人の技能レベル・主観などに基づいて得られた『体験知』を、汎用性の高い『経験知』として共有・活用する」ことをずっと強く意識しなければならないということです。そして、「閉じた体験知」を「開いた経験知」に変える上で、私が注目しているのが「概念化」(※)なのです。

※概念化

体験知を、言葉や図などを用いて表現することで経験知に変換し、伝達・共有・蓄積・加工などができるようにすること。複数の個別具体的な事柄の共通点を取り上げ、対象となる事柄とは、概ねこういうものだと説明できるようにすること。

コンピューターを用いた例で言えば、個々のファイル内容を見るだけではなく、同じ事柄に関するファイルをまとめて1つのフォルダとして見たり、さらにフォルダ間の関係(ディレクトリ構成)を俯瞰的に把握したりした上で、他の事柄との共通点や相違点あるいは因果関係や相関関係について考えることや、フォルダやファイルの分類法をまったく新しいものに変えることなどを、概念化スキルがあると称します。

ハーバード大学のロバート・カッツ教授は、マネジャーに求められる3つの能力として、専門的スキル・対人関係スキル・概念化スキルを提唱しました。コーチングの場面では、クライアントはコンテンツの専門家であり、対象領域における専門的スキルはすでに習得していると見なし、コーチはヒトや組織の変化プロセスの専門家として、対人関係スキル・概念化スキルの部分に関して支援を行います。

※参考情報2
リーダーシップ開発コーチング」のウェブサイト では、「リーダーシップ開発コーチング3つの特徴」の1つとして、「概念化」を挙げ、「表面に現れた問題症状を生み出している、問題構造(要素どうしの関係の仕方など)を把握するため、ホワイトボードやスケッチブックへの図解・言語化を多用する」ことを紹介しています。

図表1「3タイプの専門的能力開発」に関する比較表に戻って考えてみましょう。

これまでの話を踏まえ、私は、「3タイプの専門的能力開発」のどれか1つだけに取り組むのではなく、次のように3つすべてを組み合わせることが、「経験学習」を本当に効果的なものにする上で、大切ではないかと考えるようになりました。

  • 現場での実地教育訓練OJT)」で「体験知」を獲得すること
  • 相互コミュニケーションによる学習」を通して「概念化」を行い、「体験知」を「経験知」に変換すること…概念化を行う過程で、学習内容が再体系化されて自分自身の理解も深まるし、記憶も新たになるし、相手とのやり取りを通じて新たなアイディアも浮かびやすくなる
  • 一見、支離滅裂にも見えるさまざまな学習内容(…「点」情報)を、「研修」といった「体系化された知識」を通して関連付け(…「点」情報を、有機的に結びつけ、「線」や「面」や「立体」のように展開し)たり、体験知と比較・分析して新たな仮説を考案したりすること、そして、現場で新たな仮説の有効性を検証すること

[ 合同会社5W1H作成 ]

図表2: 「3タイプの専門的能力開発」と
「閉じた体験知→概念化→開かれた経験知」

このように見てくると、弊社が提供しているコンテンツやサービスでは、総合診断と問題の再設定を重視する合同会社5W1H流 「コーチング学習プログラム」 や「リーダーシップ開発コーチング」をはじめ、多くのものに、上記3つのアプローチが盛り込まれていることに氣がつきます。象徴的な一例として、本稿の冒頭で取り上げていた、「視座を高め、視野を広げ、視点を適切に選ぶ力を育みたい人のための『教養醸成の会』(CGG)」について見てみましょう。

日本各地で数多くの「読書会」や「勉強会」などが開催されていますが、「事前学習」(…自身の視点からの読書「体験」および「内省」)→「当日学習」(…参加者どうしで話し合い「経験知」と「新たな体験知」を獲得)→「事後学習」(…学習レポートの作成による「概念化」「経験知を踏まえた内省」、学習レポート提出による「経験知の伝達・共有」「学習仲間への貢献」)をすべて盛り込んだ集まりというのは、数少ないのではないでしょうか。

※参考情報3
第1回CGGで私が提出した学習レポートを公開しましたので、ご参考までに、ご覧いただければ幸いです。(ちなみに、第2回は「文明の生態史観」中公文庫/梅棹忠夫(著)を用いて、7月29日(日)@東京都内にて開催です。まだ間に合いますので、ご都合のつく方は、是非、お氣軽にご参加ください。)

CGG へのご参加にあたって
多様性を認める集まりなので、他の人と自分の学習レベルの違いなどを氣にされる必要はありません。現在のご自身にとって、何か有益な学びが得られればOKですのでご安心ください。また、氣になる回だけのご参加も可能です。

 

あなたは、「これも、それも、あれも知っている。だけど、自分では何もできない」という人にならないため、「支離滅裂で、理想論ばかりを熱く語る、現実から乖離した多趣味の人」にならないため、「経験学習」の効果性を高めるために、「体験」を「経験」に変える「概念化」に取り組んでいらっしゃいますか? 弊社では、「経験学習」のアプローチを取り入れたさまざまな学習機会(…私のように意志の弱い人間でも、定期的な経験学習を進めやすい仕組み)も設けていますので、興味をお持ちの方は、こちらから、「今後の開催イベント一覧」を確認なさってみてください♪

 

さて今回は、「視座を高め、視野を広げ、視点を適切に選ぶ力を育みたい人のための『教養醸成の会』(CGG)」について、別の角度から補足するということで話を始め、デイビッド・コルブ氏の「経験学習モデル」の話、弊社による「体験」「経験」「作業」「仕事」の定義の話、「仕事を通して、自分/自組織の競争力を高めたり、自分の人間としての成長を促進したり、自組織が行う活動の社会へのインパクト・貢献を増したりするには、どういった経験学習を心がけることが効果的か」という話をご紹介してきました。
あなたは、どのような印象をお持ちになり、何を考えられたでしょうか? 何か少しでもお役に立てれば幸いです。

それでは、また次回のニューズレターでお会いしましょう♪

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