人財と組織の育成を支援する「合同会社5W1H」のニューズレター

「納得できるように、物事を主体的に変えていく力」を持った人・組織こそが、「意義深い人生を送る能力」を持った人(から成る組織)であり、「贅沢さとは異なる豊かさを享受し、QOL(人生の質)向上を実現する能力」を持った人・組織である

フレームワークには2重の意味;「自分観・世界観」の歴史(第111号)

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 こんにちは、合同会社5W1H代表の高野潤一郎です。

前号「鬼が金棒に振り回されていないか?;どの分野でビスポーク?」で、「いざという時に頼れる、普段使いの愛刀」=「フレームワーク質問力」と書いたところ、「フレームワーク質問力」と、フレームワーク質問力を基盤とする「合同会社5W1H流のコーチングプログラム」に興味をお持ちいただけた方がいらっしゃいました。ただ、「フレームワーク」ということについて、少し誤解されていたようですので、今回は、その辺りについて補足を差し上げたいと思います。

 

フレームワーク質問力」の「フレームワーク」は2重の意味

弊社登録商標の1つである「フレームワーク質問力」中にある「フレームワーク」(framework)という言葉は、一般に

骨組み・枠組み:目的達成・問題解決・意思決定の際に用いる、特定のルール・考え・信念をひとまとまりのセットにしたもの

基礎構造:対象とするシステム(体系)・コンセプト(概念)などの基礎となる基本的な構造

という意味を持っています。

もちろん、これはこれで正しいのですが、「フレームワーク質問力」の「フレームワーク」には、上記の一般的な辞書の意味しか含んでいないはずだと思い込むと、「フレームワーク質問力」というのは、きっと、「あれこれ、広く深く考えることを避ける」ため、「自力で考えるという手間を省き、効率性を高める」ために用意した「枠組み」なのだろうと推測される方が出て参ります。つまり、何か特定の場面(営業、交渉、説得…)では、「こういう質問フレーズを、こういう手順で、使っていけば望んだ結果が得られますよ」というように「簡便さを追求するためのツール」を提供しているのではないかと、ね。

しかし、「フレームワーク質問力の全体像」という図をご覧いただけるとわかるように、「フレームワーク質問力」の流れは、「ガイドライン」(コミュニケーションあるいは思考を進めていく際の指針」を表したモノであって、単純に、「特定の場面で発すればいい質問フレーズの、機械的な手順を示した内容」にはなっておりません。弊社が開催する一般公開セミナーや企業研修などでは、コミュニケーションの「『コンテクスト』(※1)に応じて、話の進め方や用いるのが適切な質問フレーズが変わって当然である。感情を持った生身の人間どうしの会話とはそもそもどういったモノであり、それを踏まえた質問フレーズの選び方・組み立て方を学び、身につけるのが大切」なのであって、「場面ごとにお薦めの尋問・誘導メニューがあり、誰でもその通りに話せばうまくいく」といった形でテクニックやツールを伝えるアプローチは、「対症療法的である上に、逆効果を生じる恐れがあってとても危険だ」と、具体例を通してお伝えしてきています。

※1 コンテクスト(context)
前後関係、背景、状況。コミュニケーションの目的・相手との関係性などのように、「コンテンツ」(話の内容、出来事)に意味を与える枠組みのこと。

「考えるとは、合理的に考える事だ。どうしてそんな馬鹿気た事が言いたいかというと、現代の合理主義的風潮に乗じて、物を考える人々の考え方を観察していると、どうやら、能率的に考える事が、合理的に考える事だと思い違いしているように思われるからだ。当人は考えている積りだが、実は考える手間を省いている。そんな光景が到る処に見える。物を考えるとは、物を掴んだら離さぬという事だ。だから、考えれば考えるほどわからなくなるというのも、物を合理的に究めようとする人には、極めて正常な事である。だが、これは、能率的に考えている人には異常な事だろう。」

(出典:小林秀雄全作品〈23〉考えるヒント〈上〉

 

上記のような方針の下、「フレームワーク質問力」では、「『コンテクスト』や『コンテンツ』が変わっても、コミュニケーションあるいは思考を進めていく際のガイドライン」として活用できる知識について学び、多くの「実践演習」と「振り返り」を通して「質問力」を高めていく仕組みを採用しています。その中で、「ヒトの認知のメカニズム」と共に重要な役割を担う概念として、「フレーム」(モノの見方、解釈の仕方、判断などの基準となる体系や枠組み)について取り上げています。そして、「フレームワーク質問力」の「フレームワーク」という言葉には、コミュニケーションあるいは思考を進めていく際には「認知のメカニズムとフレーム」を意識することが大切だ(※2)という意味も込めているのです。すなわち、「フレームワーク質問力」の「フレームワーク」という言葉には、「骨組み・枠組み、基礎構造」に加えて、コミュニケーションあるいは思考を進めていく際には「認知のメカニズムとフレームを意識することが大切だ」という「2重の意味」があるというわけです。

※2 フレームとフレームワーク
通常、日本語としてもよく用いる「frame」(フレーム)という言葉は、「frame of reference」(参照枠、価値判断や行動の基準とする枠組み)という言葉の略語であることが知られています。認知のメカニズムの解説時には、「frame of reference」の上位概念として、「frame of mind」(心のフレーム;メタ・プログラム)、さらに「frame of mind」の上位概念としての「framework」(フレームワーク;パーソナリティ)があることをお伝えしています。

 

上記の補足でもおわかりいただけたように、「フレームワーク質問力」のセミナーや研修では、「質問フレーズの体系」について解説し、それについての演習も行いますが、ただ単に、質問を発する際の小手先のテクニックやツールをお伝えするだけの薄っぺらな内容ではありませんので、その「質」にはご安心ください。「若手」の方はもちろん、物事をはっきりと割り切る鋭さとそれを実行する力を持った「中堅」「コンサルタント」、さらに、彼らを柔らかく手綱さばきすることが求められる老練な「経営者」などにもご満足いただけている内容となっております。投資される金額や時間を考えると、非常に「生涯価値の高い内容」だと評価していただけておりますので、ご興味をお持ちでしたら、是非、「フレームワーク質問力」および「関連セミナー」をご活用ください。

 

「フレームに着目する」ということ

ここでは、少し「フレームに着目する」ということがどういうことなのかについて、考えてみましょう。

まず、ヒトが「自分(たち)」や「世界」をどう認識してきたかという見方について、簡単に振り返ってみましょう。

「自己認識と世界観」に関する歴史の1つの見方

古代エジプトでは、「霊魂は不滅とされ、死者は復活する」といった考えが説かれ、古代インドでも、「霊魂は何度もこの世に生まれ変わる」という輪廻転生の考え方が一般的であった。このように、世界各地のさまざまな文化や宗教では、ヒトが持つ「世界観」の根幹を成すものとして「肉体と霊魂」という切り口を用いていた。

1637年に刊行されたルネ・デカルトの著書「方法序説」で提唱された有名な命題に「我思う、ゆえに我あり」がある。錯覚のように、自分の感覚は当てにならないという現象が知られるようにもなり、この頃から「理性が人間の本質である」と考え、「世界を疑う、自分を見つめる」傾向が強まった。

ジャン=マルタンシャルコーは、1887年頃にヒステリー患者に適用する催眠療法の研究・実践を始め、催眠によってヒステリー症状を発現させた。その後、「心因性の身体症状・精神症状」の存在を支持する動きが生じ、臨床精神医学の現場への心理学の活用や「無意識」といった概念の普及につながっていった。この頃から、人間の本質が理性だとは言い切れなくなった

サンティアゴ・ラモン・イ・カハールは、脳内組織の染色観察を行い、ニューロンの視覚化による、神経系の構造研究を行った。(1906年ノーベル生理学・医学賞受賞)ヒトが自分自身のことを解剖学的にも考えるようになってきた。「脳内情報伝達ネットワーク」という切り口からも、「ヒトとは何か、世界をどう認識しているのか」などについて考えるようになってきた。

第二次世界大戦中、ドイツの暗号を解読するためにイギリスで使われた、世界初のプログラム可能なデジタル電子計算機であるコロッサス(Colossus Mark I は 1944年2月、改良版の Colossus Mark II は 1944年6月に完成)が登場した。「コンピューターやロボットにできること・できないこと」を明らかにすることで、ヒトとは何なのかを考える傾向が強まってきた。

その後、それまで、思考や感情といった目に見えないものを研究することが多かった心理学に、目に見える客観的な行動を関連付けて考える「行動主義心理学」が登場した。1981年、バラス・フレデリック・スキナーが、「人がある行動を行い、その行動が繰り返し行われる可能性は、行動に伴う結果に影響される」 という「オペラント条件づけ」を発表した例などが有名である。ヒトの「行動」は、「特定の環境と行動の相互作用の蓄積」という形の「学習」によって「変化」させることができる、ヒトは自分が欲することをしている時に「自由」だと感じるといった考えが現れ、ヒトの自己認識・世界観に影響を与えた。

最近ではさまざまな「錯覚」について、一般の認識が広まってきている。特に、「錯視」(視覚に関する錯覚)には有名な事例も多く、錯視画像だとわかった上で見ても錯視を起こしてしまうことなどから、ヒトは「メンタル・モデルに照らし合わせて(認識の枠に当てはめて)世界を解釈している」とされる。こういった「認知心理学」のアプローチが現代心理学の主流となり、「ヒトとは何か?」「世界とは何か?」について考える試みが盛んとなっている。

 

上記の、ヒトの「自己認識と世界観」に関する歴史の一端を見ると、「ヒトとは(私たちは)何なのか?」「私たちが生きている世界とは何なのか?」という共通した質問に対する、その時々の解が異なっていることがわかります。(…問題解決で、「『解』よりも『質問』の方が大切」と言われることがあるのは、こういった事例があるためです。)また、「新たな物事が登場した時に私たちのフレームが変わったり、私たちのフレームが変わることでそれまでとはまったく異なる潮流が生まれたりする」ことを繰り返してきていることがわかるのではないでしょうか。

こういった見方を踏まえて、私は、従来の延長線上にないブレイクスルーを起こす際、行き詰まりや同じところをぐるぐる回っている感覚から抜け出すためには、「慣れ親しんで用いている自分のフレームを顕在化させ、変更を加えてみること」「自分だったら絶対にやらないと思って避けてきた他のやり方を、試しに採用して、その結果を検証してみること」などが非常に重要であると考えています。(…「私はあなたとは違う。それはあなたのやり方でしょ!?」などと、他のアプローチを受け入れる柔軟性に欠けた態度では、従来のフレームから抜け出すのが難しくなってしまうことが多いようです。)

以前、第99号ノーベル経済学賞と、社内コーチの限界」では、

  • 私たちは、これまでの社会経験等を通して身につけた「社会的な制約」(ソーシャル・ブロック)と「心理的制約」(メンタル・ブロック)により、自ら「超えてはならない基準」を自らに課す心理作用を持っている。
  • 現状認識を変えないままで、現実を変えようとする」パフォーマンス・コーチングでは、「コーチは指示・命令をしてしまいやすく、クライアントは受け身になりやすい」という傾向がある
  • 現状認識を変えた上で、現実を変えようとする」自己開発コーチングでは、「コーチは認識を変えるような質問を発し、クライアントは主体的に考えて行動するようになっていきやすい」という傾向がある

といった内容について、そして、第109号「『学習を妨げる認識』や『知ったかぶり』を修正するプロセス?」の図表2では、

3種類のループ学習

3種類のループ学習

 

を用いて、「シングル・ループ学習」「ダブル・ループ学習」「トリプル・ループ学習」といった内容についてもお伝えしていました。

このように、「社会的な制約」(ソーシャル・ブロック)や「心理的制約」(メンタル・ブロック)を超えたところにある解を求めるとき、「現状認識を変えた上で、現実を変えようとする」とき、「主体的に考えて行動する人や組織を育てる」とき、「ダブル・ループ学習」や「トリプル・ループ学習」によって従来の延長線上から抜け出たイノベーションを起こすときには、特に、「フレーム」(モノの見方、解釈の仕方、判断などの基準となる体系や枠組み)を意識することが重要だと考えていることを、重ねてお伝えしたいと思います。

また、「学習する組織」という言葉・概念がありますが、唯一絶対解のない時代には、「目的に応じてフレームを変え、仮説と検証のサイクルを速く回す」こと(…多くの場合、「実践・間違いを重ねるほど、早く学べる」と言えるかもしれません)が大切だと考えていることも併せてお伝えしたいと思います。学習する人物・組織の育成を検討される場合には、「コミュニケーションあるいは思考を進めていく際には『認知のメカニズムとフレーム』を意識することが大切」という話を思い出していただければ幸いです。

 

以上、今回は、「フレームワーク質問力」の「フレームワーク」という言葉には、「骨組み・枠組み、基礎構造」に加えて、コミュニケーションあるいは思考を進めていく際には「認知のメカニズムとフレームを意識することが大切だ」という「2重の意味」を込めているのだという話に関連して、改めていろいろご紹介して参りました。「フレームワーク質問力」や、フレームワーク質問力を基盤とする「合同会社5W1H流のコーチングプログラム」に興味をお持ちいただけたみなさまに役立つ内容となっていることを祈念しております。

 

あなたは、どのような印象をお持ちになり、何を考えられたでしょうか?

何か少しでもお役に立てれば幸いです。
それでは、また次回のニューズレターでお会いしましょう♪

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