人財と組織の育成を支援する「合同会社5W1H」のニューズレター

「納得できるように、物事を主体的に変えていく力」を持った人・組織こそが、「意義深い人生を送る能力」を持った人(から成る組織)であり、「贅沢さとは異なる豊かさを享受し、QOL(人生の質)向上を実現する能力」を持った人・組織である

マトリクス・モデルを用いた「精聴」の事例(第100号)

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こんにちは、合同会社5W1H代表の高野潤一郎です。

弊社の勉強会や研究会では、建設的な「脱線」が毎度のごとく発生することもあって、ただ書籍を独学しているのとは異なる価値が得られるという側面からも、参加者のみなさまに評価いただけております。

今週開催した朝の研究会「C研」の脱線内容は、先日公開した無料動画のいくつかの内容とも関連しておりましたので、今回のニューズレターご購読のみなさまにも「お裾分け情報」としてお届けしようと思います。

 

今週のC研内容と、関連の深い動画

最強組織の法則」などで知られるピーター・センゲさんや、「万物の歴史」などで知られるケン・ウィルバーさんなどが推薦されている、「私たちの話し方は、どのように、私たちの働き方を変えることができるのか?」という書名の英文テキストを現在採り上げているC研では、今週は、下記のような話題について議論していました。

  • 「ヒトは積極的に意味を創り出し、現実を形作り、経験を体系づけてまとめる」という、現代の「構成主義」の基礎を成す哲学上の識別に関する話
  • 個人の言語、内的言語に関して、第1~4欄から成る「概念グリッド」を各自の事例で埋めた上での話
  • 「抑圧」は、目的/意味のある忘却という話
  • 大前提を見ることと、大前提を通して見ること
    →動画「ヒトの活動 と 知覚フィルター」に関連
  • 変容(変革)を生むための学習には、「挑戦」と「支援」の絶妙な調合が不可欠
    →動画「特徴3:システマティック(体系的な)」に関連
  • 第5の言語:「継続して、敬意を伝える」 [思いやりを示す]
    =「感謝」[適切な評価](相手に、私たちが受け取った価値について伝える) +
    称賛」[敬服、感嘆](相手の世界に入り込んで、教えられたり刺激を受けたりしたこと、あるいは、相手の行動や選択によって何らかの形で自分が高められたと感じたことを伝える)
    *間接的 → 直接的
    *非特異的 [一般的] → 特異的な[具体的な]
    *限定的な [属性的] → 非限定的な[非属性的]
    →動画「特徴2:タイプ分けではなく、パターン検出」 に関連
  • 「継続して、敬意を伝える」 [思いやりを示す] とは、相手を褒めたり、おだてたりすることではないし、相手の人となりについて肯定的なレッテルを貼ることなどでもなくて、変容(変革)の促進に役立つ「私たちの経験についての、純粋で中立的な情報」を相手に与えることによって、「支援」の質を高めることを指している。
    →動画「特徴4:フィードバックとコメントを区別」に関連

「大前提を見ることと、大前提を通して見ること」の話と関係が深いので、私は、図表1「メタ・コーチング®を構成する7つのモデル」の1つである、「マトリクス・モデル」の話を補足していました。(このテキストでは、「これは○○ではないか」という仮説を「前提」と呼び、証拠等は乏しいかもしれないけれど、真実であるとして疑うことのない前提を「大前提」と呼んで区別しています。)

 

マトリクス・モデルを用いた、精聴(≠傾聴)の事例紹介

今回のニューズレター記事を読み進める上では、マトリクス・モデルの詳細について理解していただく必要はなく、下記の「定義」と図表2「マトリクス・モデル概要」に軽く目を通していただければ、先に進めるようになっています。
(詳細な解説は、「The Matrix Model」L. Michael Hallでご確認ください。)

コーチングの領域メタ・コーチングのモデル基盤とする体系
コミュニケーション NLPモデル 認知行動科学ほか
自己再帰的意識…意識の外 メタ・ステイトモデル 認知心理学メタ認知ほか
変化、学習 変化軸モデル ゲシュタルト心理学ほか
実行 ベンチマーキングモデル 認知心理学、スポーツ心理学ほか
主観的世界観、システム思考 マトリクスモデル 発達心理学ほか
自己実現 神経意味論の自己実現モデル 自己実現心理学、実存主義心理学ほか
(変化・成長の)促進 ファシリテーションモデル トレーニング理論、学習理論ほか

図表1:メタ・コーチング®を構成する7つのモデル

 

マトリクス・モデル概要

図表2:「マトリクス・モデル概要」


定義:マトリクス・モデル / (The) Matrix Model

私たちの個性・態度・認識の本質を構成する8個のマトリクスが別のマトリクスに埋め込まれているというモデル(3つのプロセス・マトリクスと5つのコンテンツ・マトリクス)で、人間の機能を理解するための"全体論的"な"フレームワーク"を指す。

"ニューロ・セマンティクス"(NS、神経意味論)の分野において、ヒトの機能を理解しようとする全体論的な(思考、感情、行動、感情…はお互いに密接に影響を与え合っているとする)フレームワークとして活用するモデル。

発達心理学が基礎となっており、メタ・コーチングでも「自身」「ステイト」「力(能力)」「時間」「他者」「世界」「意味(価値)」「意図(目的)」といったマトリクスを用いる。

マトリクス・モデルを用いることで、意味を形成する際のクライアント特有のパターンを見つけて働きかけ、クライアントの心-身体-感情システムの変容や強化を促進する。

[ 弊社用語集より転載 ]


(図表1と図表2は、次の図表3「マトリクス・モデルを使った、精聴練習の事例」をご覧いただく際の予備知識として示しただけですので、詳細は別として、おぼろげながらマトリクス・モデルってこういう感じのものらしいなぁとイメージされる程度で大丈夫です。)

 

この辺りをC研の参加者に解説したところ、「このマトリクス・モデルをどうやって使うのか?」といった質問をいただきました。そこで、例えば、「自己開発コーチングを実施する際に、クライアントの慣れ親しんだ思考パターンを検出するのに利用する」とお答えし、(その時にはまだマス目が空欄のままで)図表3「マトリクス・モデルを使った、精聴練習の事例」を紹介しました。

C研では充分に解説する時間が取れなかったため、C研終了後に、マトリクス・モデルを使った「精聴」練習の事例(マス目の空欄を埋めた例)を探しました。すると、「前提を疑う」といった話も登場する事例として、アート・ディレクターの佐藤可士和さん が話されているNHKのテレビ番組(2年くらい前の放送?)を見ながら取ったメモがあったので、それを図表3としてお示しします。

 意味(価値)意図(目的)ステイト(心身状態)
自分(たち)自身 アート・ディレクター(AD:広告や雑誌のヴィジュアル部分を企画・制作・監督);クリエイティブ・ディレクター(CD:さまざまなクリエイターから成るプロジェクト・チームを組んで、コミュニケーションを統括) デザイン=クライアントが「こうしたい」という想い・ヴィジョンを、見えたり触れたりして実感できる形にすること 何かにのめり込むと、物事をクールに判断できなくなる→「このやり方で進めていいのか」「このコンセプトで良かったか」などと、出発点に立ち戻って考える; 他人事を自分事にする←立ち向かうものにリアリティがなければ、問題解決できない
力(能力, スキル, リソース, 自己効力感) 伝えたいことが明確でなければ、デザインは、意味を成さない→ヒアリング過程で、デザインの核になるキーワードを拾う; 最大の魅力は、自分では氣づかないことが多い→客観的な視点が大切 ブランド・コンセプトをきちんとした形で伝えていくために、時代と共に埋もれてしまっていた本質を、もう一度ピカピカに磨き直し、再プレゼンテーションする; 「一言で言うと、こういうことですよね」と概念を言語化する コミュニケーションのプロとしての一番の強みは、社内の人間とは異なり、「外の視点」を持ち、世の中側から見たイメージを捉えることができること(=ユーザー視点を通して拾った情報をデザインという言語に置き換えて形にし、世の中に提案していく)
時間     1989年博報堂入社後=平面媒体と映像のヴィジュアルをコントロールすること(=アート・ディレクション)に注力; 現在はブランディングに注力
他者(人間関係) 説得というより、「思考のプロセスを相手に伝え、共感を得る」プレゼンテーションが大切; 提案するものは突拍子もないことではなく、相手とずっと話をしてきたことの延長線上にあるべき 仕事の依頼があると、依頼企業のヴィジョンや歴史をヒアリング→問題となっている部分や企業の本質をつかむ; デザインが力強い=人を動かす力がある 情報が膨大にある社会では、正確にうまく伝えるだけで際立ってくる;思考を整理して言語化していくと、デザインも力強いものが生まれる(言語化を曖昧にすると、”決まらない”)
世界 リアルな世界と脳化社会(脳みそでつながっているイメージの社会)が境界なく存在する世界→「言いたいことが伝わっていない」(コミュニケーションが潤滑に流れていない) ブランディング=企業と社会のコミュニケーションの回路を「こう創ると良いですよ」と提案、「企業のあるべき姿」をきちんと世の中に伝える 自分の思い込みを捨てて前提を疑うことで、視野はぐんと広がり、発想の転換ができるようになる

図表3:マトリクス・モデルを使った「精聴」練習の事例

<注意>
マトリクス・モデルを用いた、この「精聴」練習の目的は、コーチングの場面において、「クライアントの個性・態度・認識のパターンを認識する」能力を高めるのに役立てることです。(そのため、ここでは、コーチングを実施するのに必要な情報かどうかといった判断を行うことは狙っておりません。)コーチングでは、必要に応じて、クライアントのパターン(知覚フィルターの機能の仕方)を認識することによって、クライアントが望む結果を得るコーチングを実施するために役立てます。

※「精聴」に関しては、動画「特徴5:セラピーには傾聴、コーチングには精聴」 で解説しています。精聴の練習にはさまざまなやり方が可能であり、今回ご紹介したマトリクス・モデルを用いる方法ばかりではないことに、併せてご注意ください。

 

【 マトリクス・モデルを用いた精聴練習の特徴 】

特定領域の「詳細内容(コンテンツ)」について情報収集するための聴く練習ではなく、話し手の慣れ親しんだ「情報処理パターン(プロセス)」に氣づくための聴く練習(…モデリングや自己開発コーチングに有効)であること

「情報処理パターン(プロセス)」を検出するために聴くので、話の内容があちこちに飛んでも、論理展開に違和感を覚えても、その流れを邪魔しないようにする(相手の意識の自然な流れを追う)というのが基本姿勢であること

 

「聴く」練習についての話

図表3について解説を加えながら説明したところ、C研参加者で、保険のセールスパーソンを対象に営業教育をご担当されている方から、「ウチでも、聴く練習というのはいろいろやっているのですが、何をどのようにどの程度聴くかという基準もありませんし、マトリクス・モデルを用いた精聴のような演習というのも、良さそうだなぁと感じました」といった趣旨のコメントをいただきました。

私は、「営業など場面ごとの目的に応じて、さらに表をカスタマイズすると良いかもしれませんね」「こういった表を使って聴くことにすると、話し手の関心事や感情を無視して、空欄のマス目を埋めることに一生懸命になる人が出てきますが、それでは本末転倒ですので、事前に練習の狙いなどについて充分理解してもらうことが必要となります」などと申し上げていました。

 

「コーチング的会話」と「コーチング」のギャップは大きい

以前、夜の勉強会では、「意識すれば、『コーチング的(要素を取り入れた)会話』ができるという人を増やすのは数日間の企業研修でも可能だけれど、企業内の数日間の集合研修だけで本物の『コーチング』ができるコーチを育成するのは、実際問題として極めて困難だ。」という話が出ていました。

…例えば、図表3のような精聴の例だけ採り上げてみても、「研修参加者の大半に、こういった聴き取りができるようにするには、時間もコストも相当かかる。社内研修で、練習方法だけを解説することにして、後は自主的な練習を積んでくれと言っても、効果を期待することは難しいだろう。」といったコメントでした。

もちろん、新人・若手・中途採用者などには、(自己開発コーチングではなく)パフォーマンス・コーチングのアプローチだけ学んでもらえれば充分だという考え方もあっていいと思いますし、選抜された経営幹部候補や次世代リーダーに絞って、集中的かつ断続的にコーチング研修をするといった取り組み方であれば有効だと考えています。

勉強会でのこういった会話も踏まえて、2010年09月01日配信のニューズレター「コーチングと外科手術; 9/10夜 汐留/新橋イベント続報」では、

  • ある有名なコーチが「コーチングを広めるには、内容を簡単にしないといけない。だから、コーチングの理論的な枠組みは不要です。」とおっしゃっているのを聞いたことがあり、私は、発言者が「コーチングを広めないといけない」「コーチを増やさないといけない」という前提をお持ちで話されたものと解釈したこと
  • コーチを外科医、クライアント(コーチングの利用者)を患者だと譬えて、「『解剖学の本を100冊読んだことがありますし、手先は結構、器用な方なので、私にあなたの脳外科手術をお任せください』と笑顔で言われても、なかなかその外科医に自分の手術を任せたいとは思えないことからもお分かりいただけるように、外科手術という行為がいくら素晴らしいものであっても、全員が外科医を目指す必要はありませんし、目指されても患者の身になって考えると困ってしまうという場合もあり得る」という私の考え

をお伝えしていましたし、

また、2011年08月06日配信のニューズレター「ノーベル経済学賞と、社内コーチの限界」では、

  • 現状認識を変えないままで、現実を変えようとする」パフォーマンス・コーチングでは、「コーチは指示・命令をしてしまいやすく、クライアントは受け身になりやすい」という傾向がある
  • 現状認識を変えた上で、現実を変えようとする」自己開発コーチングでは、「コーチは認識を変えるような質問を発し、クライアントは主体的に考えて行動するようになっていきやすい」という傾向がある

と、社内コーチの限界についても指摘しておりました。

今現在、私は、「コーチング的要素を取り入れた会話」と「コーチング」のギャップは大きいと考えていますが、みなさんはどのようにお感じになり、それを踏まえて何をお考えになったでしょうか?

 

さて今回は、

  • 今週のC研内容と、関連の深い動画
  • マトリクス・モデルを用いた、精聴(≠傾聴)の事例紹介
  • 「聴く」練習についての話
  • コーチング的会話」と「コーチング」のギャップは大きい

などについてご紹介してきました。

 

あなたは、どのような印象をお持ちになり、何を考えられたでしょうか?

何か少しでもお役にたてれば幸いです。

それでは、また次回のニューズレターでお会いしましょう♪

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