人財と組織の育成を支援する「合同会社5W1H」のニューズレター

「納得できるように、物事を主体的に変えていく力」を持った人・組織こそが、「意義深い人生を送る能力」を持った人(から成る組織)であり、「贅沢さとは異なる豊かさを享受し、QOL(人生の質)向上を実現する能力」を持った人・組織である

人によって現実が異なるとはこういうこと!;対立の価値(第96号)

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こんにちは、合同会社5W1H代表の高野潤一郎です。

先日、「他者と自分で現実が異なるって、どういうことですか?」「対立とかコンフリクト・マネジメントと、創造性ってどういう関係があるのですか?」といった質問をいただく機会がありました。

そこで、今回は、この辺りの話について、私の考えを少し紹介してみようと思います。

(下記をお読みいただいた上で、「対立」の扱いなどについて興味が増した方は、弊社主催のセミナーで詳細をご確認ください。)

 

「対立」って避けたり、解消したりした方がいいのでは?

2011年06月08日配信の第94号「5つの対立モード→妥協を協働に変えれなければ価値はない」でお伝えしたように、私は、さまざまな制約条件の下、仕方なく「妥協」「回避」「強制」「服従」を選ぶことはあっても、それらについて、わざわざセミナーや研修といった場を設けて学ぶ必要はなく、意識して学ぶ価値があるのは「対立を活用して協働に向かう」アプローチであると考えています。

「対立を活用して協働に向かう」アプローチについては、問題解決の場面で、対症療法的な処置を繰り返すのではなく、本質的問題解決に向かうため、議論を深めるために、「デビルズ・アドボケイト」(devil's advocate:※1)の役を買って出ることがあるといった例を挙げることもできるでしょう。

昨年、「大きなスケールのイノベーションを成し遂げるには、組織内部に『正しい対立』を起こし、衝突する異論の中から将来の道筋を見出していく戦術眼が必要だ」という趣旨の内容が書かれた「ザ・ライト・ファイト」 という翻訳書も出版されるなど、価値観の多様化やグローバル・ビジネスの進展に伴い、さまざまな場面で、「対立」の有効性が見直されてきているように思います。

※1 デビルズ・アドボケイト(devil's advocate)
議論を通して、「創造的摩擦」や「対立」を引き起こし、見落としを発見したり、今までの議論よりも一段高い視点を得たりするために、反対意見を意図的に述べる人

 

他にも、ソニーの共同創業者などとして知られる盛田昭夫さんの著書「MADE IN JAPAN―わが体験的国際戦略」から、「対立」の大切さについて、非常にわかりやすい話をご紹介したいと思います。


「盛田さんが副社長で、田島道治さんが会長(…宮内庁長官などを歴任)だったときの話」です。「対立」の有用性について理解するのにお役立てください。
     ↓     ↓     ↓     ↓     ↓
「盛田君、君と私とは意見が違う。私は絶えず意見が対立するような会社にいようとは思わない。今すぐ辞める。」

この点に関しては、私(盛田さん)は強い信念を持っていたので、臆せず返答した。

お言葉ではありますが、あなたと私がすべての問題についてそっくり同じ考えを持っているなら、私たち二人が同じ会社にいて、給料をもらっている必要はありません。その場合は、私かあなたのどちらかが辞めるべきでしょう。この会社がリスクを最小限に抑えて、どうにか間違わないですんでいるのは、あなたと私の意見が違っているからではないでしょうか。

「どうぞお怒りにならず私の考えを検討してみてください。私と意見が違うからと言ってお辞めになるというのでは、会社はどうなってもよいというのでしょうか。」


いかがでしょうか?
「対立」に対するイメージ、変わってきましたか?

「価値観の多様化」「創造性」と「対立」について

かつて、グローバル・ビジネスと言えば、最大公約数的ニーズに応える商品・サービスを提供する製造業・運輸業、あるいは、本社の人間が全体像を描き各地域の現場はその全体像に従って作業を行うビジネスをイメージする方が多かったように思います。

ところが、近年になって、世界を均質な市場と見なし、「生産性」と「効率」を追求するモデルを前提にして、業務内容などの「標準化」と「世界分業」を考える人々と、「各国・地域・文化・慣習独特のニーズ」に応えようとする人々の「対立」が顕在化してくるようになってきました。

(各国・地域・文化・慣習独特のニーズに応えることで成功を収めている電機メーカーの例で言えば、メッカの方向表示やコーラン・イスラム暦を内蔵したイスラム教徒向けの携帯電話「メッカフォン」、「施錠できる冷蔵庫」@インド、「キムチ収納庫付き冷蔵庫」@韓国、「熱帯病を媒介する蚊を寄せつけない効果を持つエアコン」@インドネシアなどが良く知られていますね。)

そして、全体最適と部分最適の「ジレンマ」(※2)など、各種「対立」を乗り越える「創造性」を発揮しよう!「イノベーション」を起こそう!という風潮が強まってきたように感じています。

※2 ジレンマ(dilemma)
対象とする問題に対して2つの選択肢が存在し、そのどちらを選んでも不利益を被ることがわかっているため、意思決定できていない状態。

 

また私は、地域経済開発論・都市社会学を専門とするリチャード・フロリダ(Richard L. Florida)さんも、間接的に「対立」の重要性を訴えていらっしゃっるように感じています。

彼が「クリエイティブ資本論」などで、イノベーションによって経済発展を遂げる地域に共通する条件として、

  • 「技術」(Technology)
  • 「才能ある人材」(Talent)
  • 「寛容性」(Tolerance)

という3つのTを挙げていたのを記憶されている方も多いのではないでしょうか。

3つのTの中でも特徴的な「寛容性」については、「多様性指標」(diversity index)を用いて計測するとし、「多様性指標」を構成する副指標として、「人種のるつぼ指標」(melting pot index)「同性愛指標」(gay index)「ボヘミアン指標」(Bohemian index)の3つを挙げていらっしゃいました。
…リチャード・フロリダさんは、「人間1人1人が創造的であり、まだ引き出し得ていない創造性を引き出すことが、人々の繁栄や生活の向上につながる」という考えをお持ちで、種々の調査研究の結果に基づき、「いろんな人種の建築家、美術専門家、エンジニア、科学者、芸術家、作家、上級管理職、プランナー、アナリスト、医師、金融・法律の専門家などが活動し、同性愛者への偏見が少なく、自分たちと異質な人を受け入れる文化的素地を持った地域は、イノベーションによる経済発展を遂げる」という主張をされています。(指標の適切さなどについては議論があるようですが、「価値観の多様性を認める寛容性を備えた地域が経済的発展を遂げる」というのは興味深いですね。)

個人が創造性を発揮して生み出したモノは、当初「異端である」とか「違和感を覚える」とされ、既存のモノとの間で、「摩擦」「対立」を生じ、そのほとんどは社会に容認されずに消え去っていきますが、ごく一部のモノについては、社会が受け入れ、逆にそれを新たな文化・標準的なスタイルなどとして社会に定着していきます。

つまり、「創造性を生み出す土壌としての社会的寛容性(多様な価値観の共存を認める社会)→個人が創造性を発現→創造的摩擦・対立→社会的創造性の発現」というプロセスを通じて、創造性を地域の経済発展に結びつける際にも、「対立とどのように付き合うか」(コンフリクト・マネジメント)が大切になってくるという訳です。

 

多くの「対立」は、「認識の違い」から生じる

これまでの話で、「対立を活用して協働に向かう」「創造的摩擦を活用してイノベーションを起こす」ことの価値について、少しイメージを持ち始めていただけたのではないかと思います。

今度は、「他者と自分で現実が異なるって、どういうことですか?」という質問に戻って、対立が生じる原因である「認識の違い」について、図1を用いて説明してみることにしましょう。

図1は、「同じL社に勤めるAさん、Bさん、Cさんの3人が、長年取引を続けている大切なお客様との打ち合わせが終わる頃、次の図に示すような言葉を聞いた。A・B・Cさんは、打ち合わせから戻り、先方の言葉から考えたことについて話をしている。」という場面を表しています。

事実認識(主観的世界)の違い

図1:事実認識(主観的世界)の違い

 

  • Cさん:「さっきの話だけだと、顧客が本当に望んでいるものが何か、よくわかりませんでしたね。」
  • Aさん:「何を言っているの?あの顧客が望んでいるのがエコ路線だってことは、彼の発言で明白だったじゃない?」
  • Bさん:「おいおい、2人とも冗談はよしてくれよ。これからは今まで以上に徹底的にコストダウンに取り組まないと、顧客を取り逃がしてしまうんだぞ。」

図1では、「情報の取捨選択→解釈→判断→結論」という形で、「認知の違い」から「対立」が生じることを示しています。
…「自分は現実を正しく認識している」という思い込みを持ってしまうと、さまざまな角度から状況を把握する可能性を排除してしまいます。(経営幹部層や、各分野のリーダーなどは、特に注意しましょう!)

言葉巧みに相手を丸めこんだり、屁理屈などで相手を煙に巻いたりしていては、相手に「妥協」「回避」「強制」「服従」を強いてしまい、心に不満や不信感、時には怒りなどを抱えた相手は、やがて大きな障害を生じる原因となってしまう恐れがあります。

ですから、「こういうときには、このフレーズで切り返す」などといった言葉を覚えたり、交渉「術」を身につけたりするのではなくて、「相手も自分も妥協せず、納得できる新しい道を探る」というコンフリクト・マネジメントのアプローチが重要であると考えています。

(図1は一例にすぎませんが、相手との認識のズレにより、生産的なコミュニケーションがとれずお困りの方や、立場や価値観の違いなどを乗り越えて「協働」を進めるのに必要な「コミュニケーション能力」を身に着けたい方は、是非、「質問力」セミナーをご活用ください。「質問力(後編)」では、ヒトの認知のメカニズムに基づき、より詳細な解説を行っています。もちろん、より直接的に対立を扱う「コンフリクト・マネジメント入門」もご活用いただければ幸いです。)

 

さて、「他者と自分で現実が異なるって、どういうことですか?」「対立とかコンフリクト・マネジメントと、創造性ってどういう関係があるのですか?」といった質問をいただいた時のことを思い出しながら、いろいろご紹介してきたわけですが、「対立を活用して協働に向かう」「創造的摩擦を活用してイノベーションを起こす」ことの価値について、あなたは、どのような印象をお持ちになったでしょうか?

 

何か少しでもお役にたてれば幸いです。

それでは、また次回のニューズレターでお会いしましょう♪

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